いつかの君と握手

「ん? どうした、イノリ」

「て」


ぐい、と小さな手を突き出された。


「ん?」

「手! おれとつなぐの!」

「ああ、そっか。こけたら危ないもんね」


はいよ、と手を繋いだ。小さなそれをきゅ、と握る。


「大丈夫。あたしが三津みたいにシュパッと助けてあげるからね」


こうね、こう、と真似をしてみせると、夜目にもはっきりとイノリが顔を曇らせるのが分かった。


「ミャオって、ばか」

「は?」


なんですと?


「ばかだよ、もう。いやになっちゃう」


ぷう、と頬を膨らませて、イノリはぐい、とあたしの手を引いた。
大股で一歩前を歩く姿に、ようやく気付いた。

ああ、そうか。
あたしはエスコートされる側だったわけか。

汗ばんだ子どもの手に引かれながら、ついつい笑ってしまう。
イノリに気付かれたら大変だから、ひっそりこっそりと。

あたしを女扱いしてくれてるんだなあ、この子。
いや、嬉しいんだけどさ。
でもちょっとマセてるんでないの?

きっと数年も経たずに、女の子にモテまくり人生に突入するんだろうなあ。


って、そういや大澤はモテてたけど、女に興味なさげだったんだっけ。
こんなに女の子に積極的な子が、どうして無欲になっちゃうんだろう。

9年の歳月で、何か起こったんだろうか。
だとしたら、もったいないよなー。
顔もいいし、性格もいいのに(この時点では)。


「ああああああっ!」


先を行く2人が大きな声をあげた。


「どうしたんですか!?」

「蛍ぅ!!」


振り返った柚葉さんが、宙を指差した。
その先に、ふわふわと揺れる小さな光。


「ホントだ! 蛍だぁ!」

淡い光は1つ。
呼吸するようにゆっくりと瞬きを繰り返しながら、宙を舞う。


「ミャオ! こっちも!」


イノリの声に見てみれば、新たな光が揺れていた。