いつかの君と握手

「祈くん、どこに隠したんですか!?」

「隠してねーって。今オマエ自身が確認しただろ。何ならトイレのタンクの中まで確認すればー?」

「言われなくても探します! お風呂場も!」

「どーぞー?」


バシンと襖を叩きつける音がして、駆け出す足音。
あとに続くのんびりしたのは三津のものだろうか。

どうやら、比奈子の捜索の手から逃れられたようだ。

話し声が一際遠くなったのを確認してから、はあー、と全身でため息をついた。


「ね、どうなってるのさ、イノリ」


小声で訊く。
イノリも小さな声で、くすくすと笑った。


「ここ、お隣さんの部屋の押入れなんだ」

「は?」

「このアパート、古いでしょ? そのせいか、お隣の押入れとの仕切り板が緩んでてすぐに外せるんだあ。
母さんに怒られて、押入れに閉じ込められたときに見つけた、おれの秘密の通路」

「すげえ。イノリ、あんた優秀すぎっ」


ぎゅう、と抱きしめると、イノリはふふー、と自慢げに笑った。
耳を澄ませば、三津と柚葉さんが比奈子を追い出そうとしているところだった。


「納得した? したなら帰れ」

「祈くん、逃がしたんじゃないですか?」

「なんでそんなことしなくちゃいけないのよ。あなた、いい加減アタシたちに失礼じゃない?」


比奈子、食い下がってるな。
そんなに祈を加賀父に会わせたくないのか。


「じゃあどうして一心さんを探してるのか、教えてください」

「理由を言えば、オマエは風間さんの居場所を教えるのかよ」

「!? い、いいですよ? 本当に必要ならば!」


マジで?
イノリと身を乗り出した。

果たして、三津が不満げなため息をついた。


「実はオレ、風間さんに金借りたままなんだ。で、そのことがさっき柚葉にバレて、すぐに返せって怒られたんだよ」

「は? おかね、ですか?」


おかねですか?
予想外のことに、こちらもきょとんとしてしまう。


「おう。『ここも風間さんのお陰で住めてるのに、お金まで借りっぱなしなわけ?
直接会って土下座すべきだわ』なんつってうるせーんだ、こいつ。
なあ、柚葉?」

「そ、そうよ。だって非礼にも程があるでしょ? 訊けば結構な金額だし、返すのが筋だもん。比奈子ちゃんも、そう思わない?」

「大金なんですか!? それは……確かにわたしもそう思います。
でも、一心さんは帰郷する前にお金のことは言わなかったんですか?」