いつかの君と握手

「大澤? ああ、昼間に来たって奴か。
男の子を捜してる、っつてたんだっけ。だよな、柚葉?」

「うん。息子って言ってたけど……、もしかしてそれが風間さんの子どものこと? よく分かんなかったからすぐにお引取り願ったけど。
ねえ、比奈子ちゃん、どういうこと? 急に来て偉っそうに言われても、アタシにはさっぱりなんだけどー」


柚葉さん、名女優!
ウザそうな色がありありと声に滲んでますぜ。
って、半分以上は本当にウザいと思ってるんだろうけど。


「もう、二人してとぼけるんですかぁ? いい加減にしてください。
実の親から逃げ出した子どもを匿っても、いいことなんてないんですよ。

祈くーん? もうすぐお父さんが迎えにくるから、用意して出ておいでー?」


語りかけるような大きな声に、イノリが体を硬くした。


「今更一心さんのところに行っても、迷惑になるだけなんだよぉ?
一心さんにだって、新しい人生があるの。
実の子でもないのに、お父さん役をしてくれるわけないでしょぉ?
君には君のお父さんがいるんだから、そのお父さんのところにいなさーい」


ムカつく。
この女、すんげえムカつく。
飛び出して行って、横っ面ひっぱたいてやりたい。
ファンだか何だか知らないが、人を傷つけることしかできないのなら、クチバシ突っ込むんじゃねえ。


「祈くーん? ワガママ言ってちゃダメで」

「ワガママ言ってんのはオマエだろうが、馬鹿女」


感情の読めない、三津の声がした。


「は? 馬鹿とか失礼だしい、三津さ」

「勝手に人の部屋に来て、玄関先で意味不明なことばっか言いやがって。
風間さんの子どもがここにいなくてよかったな?

『あのお姉ちゃんはボクを傷つけることを楽しそうに言ってたよ』

って風間さんに言われなくて済んだからな」

「な、なんですか、それ!」

「オマエ、小さな子どもに嫉妬してどうすんの? 風間さんがあの子を大事にしてたのは、誰でも知ってる事実だろ。

それに、あの人は自分を慕ってやってきた者を、特に、一度はお父さんと呼んでくれた子どもを迷惑だと思う人じゃない。
比奈子、オマエ風間さんのドコ見てファンだなんてほざいてんだ?」

「な……」


比奈子が口ごもった。
何か言おうとして、でも言葉がでないようだ。

三津、アンタ、偉い!
押入れの中で、音をたてずに拍手を送った。
よくぞ言ってくれた。
比奈子への怒りが、三津のお陰で収縮してゆく。


しばしの沈黙のあと、三津が面倒くさそうなため息をついた。


「大澤さん、だっけ? その人にはしっかり謝っておけよな。嘘情報に惑わされてここまで来てんだろ? じゃあ、もう帰れ」


ガチャとドアを開ける音がした。

よかった。
どうにかこの場がしのげそうだ。
ほっと息をついた。