いつかの君と握手

「あはは、きっと今の話は極端な例だってば。
で、タイムスリップの事実を知らない高校生の祈くんは、誰だかが美弥緒ちゃんに会いたがってるって言ったんでしょ?
それが誰なのか分かればいいのにねー」」

「すっかり忘れちゃってるんですよねー」

「うーん、誰だろうね、ヒジリ? ヒジリ?」


三津は窓際でタバコをふかしながら、遠い目をしていた。


「9年後……、オレ、31歳か。どんな男になってんのかなー。役者で成功してるのかなー。
みーちゃん、三津聖という名前に聞き覚えない?」

「ないです。といってもあたし、流行とかにちょっと疎いんですけどね」

「それでも人気のある俳優なんかは知ってるだろ? あー、オレ、9年後なにしてんのかなー……」


あのー、三津さん?
未来の自分に思いを馳せる前に、一緒に考えてもらえると嬉しいんですけどもー。

さっきのあの鋭い眼差しは見間違いだったんだろうか。うーん。


「とりあえずはアタシに捨てられてんじゃないの?」

「は!? マジ? オレの未来サイアクじゃん!」


柚葉さんの言葉にようやく我に返った様子。


「サイアクかどうかは置いておいて。美弥緒ちゃんのこと、考えてやんなって。あと、祈くんのこともさー」

「はあ……。とりあえずそうすっか」


ため息を一つついて、三津はケータイを取り出した。
どこかにかけているのか、小さくコール音が聞こえた。
次いで、男の人らしき低い声。


「あ、もしもし、ヒジリくんでっす。あのさー、オマエ風間さんの連絡先知らない?
うん、そうそう。電話番号でもいーんだけどー。
え? 比奈子? あいつ電話出てくんねーもん。えー、やっぱオレ嫌われてんのー?
ああ、そう? 悪いね、うん」


ぱくん、と二つ折りのケータイを折って、あたしを見た。


「風間さんを探そう。あの人ならどうにかできるかも」

「え? あたしが、帰れるってこと?」

「少なくともオレと柚葉に頼るよりはいいと思う。変なモンがしょっちゅう見えてた人だから、そんなオカルトちっくな話、得意なんだ」


変なモン。
幽霊とか、そういうことでしょうか。つーか、あたし幽霊? オカルト扱いしないでよ。


「祈も会いたがってんだし、ちょうどいい。
あ、でも、風間さんが遠いところに住んでるんだったら、祈だけ先に実の父親のとこに返すからな。
思いのほか近いんだったら連れて行ってやる。弁護士父との交渉は風間さんに任せりゃいいだろ。
いや、でもみーちゃんのこと考えたら、連れて行ったほうが無難かな。祈とみーちゃんを引き離したらヤバいような気がする」

「美弥緒ちゃんと祈くんを離すと、なんでヤバいの?」

「みーちゃんの話だと、こっちに来る寸前まで祈といたんだろ?
で、こっちに来てもすぐに祈に出会った。
引き合ってるってことだから、下手に離すのはよくないだろ」

「はー、なるほど」

「ってことで風間さんの居場所を確認後、二人を連れて移動だな。まずは居場所探しなんだけど、それは今劇団の奴に問い合わせてるから」


てきぱきと決める三津に少し感激。
やっぱりあたしよりも大人なんだ、この人。

多少尊敬の意味を込めて三津を見つめると、軽快な音楽が鳴り始めた。