いつかの君と握手

「うっわ、マジ? ケータイすんげー進化すんじゃん」

「いいなー。アタシもこれ欲しー。便利そうだし」


貸して、と三津さんに言われ、手渡す。
おもちゃで遊ぶように仲良くいじりだす2人に、おずおずと訊いた。


「あの、信じてもらえましたでしょうか?」


2人が顔を見合わせた。
一拍置いて、同時にこくんと頷く。


「信じる」

「信じるしかないし!」


あたしの顔を見て、笑顔で言ってくれた。


「あ、ありがとうございますっ!」


ほっとして、つい目尻に涙が滲んでしまう。
無意識に気を張ってたんだろう。
肩の力がふっと抜けた気がした。



***



「――えーと、これ誰だっけ? 高校のときの授業で見た覚えがあるんだけどなー」

「え、どれ? あー、オレも落書きした覚えあんぞ。多分あれだ、日本史」

「日本人なのは見て分かるしね。これ誰? 美弥緒ちゃん」

「樋口一葉です。女流作家の」

「じゃあ現国? まさかの古文? えー、樋口一葉って覚えてなーい」


今、二人はあたしの持っていた新紙幣を眺めている。
いつ変わったんだろうなあ、デザイン。


「あ、話が逸れちゃったね。ええと、祈くんにタイムスリップのことは内緒にしてるんだ、って話をしてたんだっけ?」


はい、これ、と五千円札を差し出す柚葉さんから受けとりながら、頷いた。


「内緒というか、最初は不安がらせるだけかと思って言わなかったんです。
でも、高校生の大澤はあたしがタイムスリップしたなんてこと全然知らない様子だったから、言わないままの方がいいのかな、と」

「それは、アタシもそう思う。映画とかだと、未来から来た人間はむやみに過去をいじったらよくない、とかいうしね。
何の映画だったか忘れちゃったんだけどさー、恋人を亡くした主人公がね、過去に戻って恋人を助けようとすんのよ。
で、上手いこと恋人を助けるんだけど、今度は自分が死んじゃうわけ。
過去を書き換えたら、今度は自分の死が待ってた、ってことねー」

「柚葉さん、それ、怖いです……」


今それ笑えないんですけどー。
思わず自分を抱きしめる。
イノリには絶っ対に言わないでおこう。