いつかの君と握手

「今朝、あたしは高校の親睦旅行に行く予定で、K駅に向かって歩いていたんです。
その途中で、クラスメイトの大澤祈に会って、話の途中で大澤から離れたあたしは、不注意で車に轢かれそうになって」

「ちょい待ち。大澤祈、って、隣の部屋で寝てるあいつのこと?」

「はい。あたしと同じ、高校1年生の大澤祈です。
で、車に轢かれそうになって、思わず目を閉じたんですけど、次に目を開けたら、そこには小学生のイノリがいたんです」

「みーちゃん、まじで言ってる?」

「めちゃくちゃマジです。信じてください」


それから、信じてもらおうと必死に説明した。
大澤が9年前にあたしと出会ったといい、その場所がK駅だったこと。
大澤は小学生ではないあたしを知っていたようで、今日の服装を見て酷く驚いていたこと。

今までの大澤との会話も思い出せるだけ話し、それらのことから、タイムスリップしたあたしはイノリと行動を共にすれば元の時代に戻れるんじゃないかと判断したことまで、
できるだけ順序良く話した。


「というわけなんです。あの、信じてもらえないでしょうか?」


すっかり温くなったコーヒーを一口飲んで、目の前の二人を窺った。
頭がおかしい子だと思われたらどうしよう。


「……えー、と。未来から来たって証拠みたいなもの、ある?」


三津が頭をぼりぼり掻きながら言った。

証拠……。
一瞬考えて、すぐさまメッセンジャーバッグを引き寄せた。

生徒手帳とケータイを取り出して、二人の前に置く。


「えーと、これは生徒手帳だよね?」


三津が生徒手帳を手に取った。


「あたしの生徒手帳で、ちゃんと証明写真も貼ってます! 一番最初のページに発行期日が書かれてて、2012年になってます。校長印も捺印されてる本物です」


失礼して、とページを捲る三津。
柚葉さんがその手元を覗き込んだ。


「……うわ。マジだ。年度が違う」

「ひゃー……」

「偽造、なんて簡単には無理だよなー。すげー」


生徒手帳を柚葉さんに渡して、三津はケータイを手にした。


「で、こっちはなに?」

「ケータイです」

「え。見たことない型だ。つーか、どうやって使うの、これ」

「ケータイなの? にしては画面しかないねー」


スマートフォンって最近流通したんだよね。
この時にはまだなかったはず、と思ったんだ。


「画面に直接タップして使うんです。こっちにきたときから圏外になってて、通話は無理なんですけど。でも音楽を聴くこととかはできます」


三津さんの手から取って、パソコンから落としておいた曲を流してみせた。