いつかの君と握手

思わず、三津を凝視してしまっていた。
どうして分かるの? あたしは一切自分のことを話していないし、イノリとの出会いも話さなかったのに。


「どう? みーちゃん?」


さっきまでのぐうたらした男の雰囲気じゃない。
真っ直ぐにあたしを見る三津の目は、僅かな嘘も見逃してくれそうになかった。
姐さん……、貴女の男を見る目はやっぱすごいのかもしんないっす。


「……はい、そうです。今朝、イノリと会いました」

「え、ほんとに?」


うなだれたあたしの頭に、柚葉さんの驚いた声が振ってきた。


「アタシてっきり、祈くんの知り合いなんだとばかり思ってた。仲よさそうだったし。
え、じゃあ美弥緒ちゃん、よく知らないのに祈くんに付き合ってたわけ?」

「事情は、イノリから訊いたので、少しは知ってます。でも父親の仕事とか、細かいところまでは」

「面倒見がいいわー。普通、ここまで付き合えないでしょ。警察に連れてっておしまいにするよ、きっと」

「それは」


それは、あたしの事情もあったので、と言いかけて口を噤む。
その事情を突っ込まれて訊かれたら、返答できない。

しかしそれを三津は見逃してなかったようだ。


「みーちゃんさ、家出? 行くアテもないし、ってとこ?」

「え!? 美弥緒ちゃん、家出っ子なの!?」


三津、カンよすぎ。
家出ではないけど、それが妥当な線だと思う。というか、行くアテがないのは当たりだし。


「ヒジリの言ってること、本当なの? 悩み事とかあるのなら、アタシが聞くよ。これでも結構波乱万丈な人生歩んできたつもりだから、言って?」


柚葉さんがあたしの肩にそっと手を置く。


「せっかく出会ったんだもん。これも何かのエンだしさー。
それに、人を救うも世を救うも、全ては相互いに思う心なり、なんだよ」

「あ。鳴沢様……?」


柚葉さんが今すらすらと口にしたのは、鳴沢様名言ランキングベスト3に入っている(あたしの中で)お言葉だ。
それをなんで柚葉さんが?
は、としたあたしに、柚葉さんの瞳がきらりと光った。


「もしかして美弥緒ちゃん、鳴沢護衛隊?」


あああああああああ、それは鳴沢ファンの愛称ではないか!
『も』、『も』ってことはもしかして!!!


「柚葉さんも護衛隊なんですか!?」

「きゃー! やだ、ホントにぃ!?」


気付けば柚葉さんと手を取り合ってはしゃいでしまっていた。


「惣右介死すの回、最高だと思わない!? アタシあれ何回観ても泣いちゃうの!」

「あたしもです! その一つ前の回で、惣右介がすごく活躍するじゃないですか。
お煉を助けに行くところ。
いつもあそこから見るんですけど、もう画面が涙で滲んで見えないんです!」