「やるやる! あ、このでっかいのあたしやりたい!」

「おう、いいぞ。ほら、こっち」


イノリと並んで、裏庭へと出た。
途中、じいさんの熊のようなイビキが聞こえて、顔を見合わせてこっそり笑った。


「水、用意してくる。ミャオはそこに座って待ってろ。歩き回るなよ」

「うっす。了解!」


案内された裏庭は、こじんまりと整った場所だった。
今は亡きおじいさん(加賀父の実父様だ。二年前にお亡くなりになったらしい。お会いできないままだった。残念)のお部屋の縁側に腰掛ける。

ゆっくり闇に慣れてきた目で見渡せば、隅におかれたプランターから壁に向けて朝顔が蔦を這わせ、朝日に備えて蕾をきゅうと閉じているのが見えた。
お。あんなところにカエルの置物が。
かわいいなあ、誰の趣味だろう。


「お待たせ」

「お……おおう」


イノリがなみなみと水を満たしたバケツを持ってきた。
いや、当たり前のことなんだけど、ちょっと嫌な思い出が蘇っちゃった。
『トイレ用』なんて表記がないか、探しちゃった。
こういうの、トラウマっていうのかねー、早く忘れたいわー。


「どうかしたか?」

「いや、何でもない。花火やろー」


一番でっかい花火を手にして振ってみせると、イノリが笑った。