あーもう加賀父め。
からかうなよもう。

だがしかし、あんなのを見られてしまった以上、あたしも恥ずかしくって何も言えない。
あの光を当てられた瞬間は、もう回想すらしたくない。

つーか、何で後ろ歩くのさー。前行ってよ、前。
あー、まだ笑ってるし、もう。
居た堪れない笑い声を背に、こそっとため息。

とりあえず、大人しく運ばれてしまおうと、イノリの肩に頭を乗せたあたしであった。


***


懐かしの柳音寺は、その佇まいを何一つ変えていなかった。
あの時も暗闇の中だったっけな、とイノリの背から本殿を眺めた。
で、あたしを出迎えてくれたのは、つるっぱげになった織部のじいさんだった。


「ぎゃああああぁぁぁぁ! 志津子!」


玄関先で腰を抜かし、わなわなと震える指であたしを指した。


「またかよ。違うって、美弥緒です」


イノリの背中で、にや、と笑って見せて、言い足した。


「ね? 9年後も元気だったっしょ?」

「な、な、ななななな、なんであんた、そんな若いんじゃ……。もしや、化け猫!?」

「イノリと同じこと言ってる」


あはは、と笑うあたしを、イノリが上り框に降ろしてくれた。


「先生、彼女は正真正銘の人間の女の子ですよ。あの時は未来から来てたんです」

「未来……。いやまさか。でも、志津子じゃし……」


加賀父が説明してくれるが、じいさんは腰を抜かしたままである。
まあ、そうだよなー。
信じらんないよなー。
よく分かる。

その間に、イノリはさっさかとあたしの左の靴と靴下を脱がせてしまった。


「うわ! じ、自分でするし!」

「いいから! うわ、酷えな」


見れば、この間よりちょっとマシかも? だけどどす黒い足首がコンニチワしていた。
な、治ったばっかだったのに……。
夏休みは明日からなのに……、何、この足。

呆然としたあたしを、足先に屈んだイノリが見上げた。


「処置したいけど、先風呂入ったほうがいいかな。平気か?」

「へ? ……うえ、汚っ! う、うん、お願いします」


見下ろせば随分薄汚れていた。
足も、綺麗に洗ってから処置したほうがいいだろう。
じいさんと話していた加賀父が言った。


「イノリ、案内してやりなさい。その間に湿布とか用意しておくから。美弥緒ちゃん、後でゆっくり話そうね」

「おう。ほら、来い」

「す、すみません。ではまた」


まだ動揺している様子のじいさんにへらりと笑いかけて、イノリの肩を借りて奥へと向かった。