いつかの君と握手

むっすうう、と顔を顰めたイノリは、あたしから離れ、どさりと座り込んだ。
加賀父を見上げる。


「いつからいたんだよ」

「えー? 言うと恥ずかしくない? 二人とも」

「言わないでくださいぃぃ!!」


もうそういうの知りたくない。
世の中には知らないでいた方が幸せなことがいっぱいあるんだ。

叫んだあたしに、加賀父があははと笑った。


「心配だったから見に来たんだけど、美弥緒ちゃんが元気そうでよかった。看板の向きが間違ってたんだって? ごめんね、明日全部確認しておくよ」

「い、いえ。あ! ていうか! 御迷惑かけてすみませんっ。しかもこんな夜更けに」


ぺこぺこと頭を下げると、いいよそんなの、と柔らかく返された。


「ウチは一向に構わないよ。美弥緒ちゃんなら大歓迎。
でも、年頃の娘さんなんだから、あんまり無茶しないでほしいな。連絡くれたら駅まで迎えに行ったのに」

「そんな、滅相もないです」


あたしの勝手で来たのだ、加賀父を使うだなんてそんなことできるはずがない。
ぶんぶんと首を振る。


「とにかく帰ろう。えーと怪我してるんだよね? 俺が抱っこしようか?」


にこ、と加賀父が笑みを湛えて仰ったが、抱っこなんてそんな恐れ多いことをして頂く訳にはいかぬ。
滅相もありません! 這ってでも移動しますと言おうとしたら、イノリの声に阻まれた。


「断る。俺が連れて帰る」


言うなり、あたしに背中を向ける。「来い」と短く言われたところを見ると、背中に乗れということか。


「え、えーと」

「早くしろ」

「は、はい」


せかされて背中に乗った。
イノリが立ち上がると、加賀父とばちりと視線が合った。

あのー、にやにや笑いひっこめてもらえませんかー。
めっちゃ親馬鹿的な顔になってますけどー。


「くくっ、い、行こうか」


息子の成長でも感じたんだろうか。歓喜の笑みって感じ。
こっそり(というか堂々?)と笑う加賀父は先を行くあたしたちの後をついてきた。


「……っくしょ……クソオヤジが……っ」


イノリが苛立った呟きを漏らす。
うーむ、怒ってますね。

さっきよりもぐんと足取りが乱暴になってます。
ゆ、揺れるー。

手にした懐中電灯が前後左右に移動した。


「祈、もっと丁寧に運んでやらないと傷に触るぞー」

「わかってる!!!」