いつかの君と握手

無意識に、手が動いていた。
もそもそと移動して、ためらいがちに抱きしめ返した。
大きな体は、きゅ、と力を込めるとびっくりするくらい跳ねた。


「うあ! な、なんだよイノリ! やっぱダメだった!?」

「い、いや、そんなの不意打ちでされると……」


うわずったイノリの声が一瞬途切れたかと思うと、耳輪に触れるくらいの距離で再び続きが囁かれた。


「理性が崩壊する」

「ふ、ふわぁぁぁっ!?」


なんつーエロめいた声で囁きやがるんだ! しかも吐息がふわって、ふわって!
ぞくりとしたものを感じて叫ぶ。


「び、びっくりするだろ! 何言ってんだ!」


体を離そうとすれば、逃げられないようにがっちりと止められた。


「何言ってるも何も、本当だから仕方ねえだろ」

「いいいいいいや、仕方なくねえし! つ、つか離せ!」

「ヤダ。もう堂々とこういうことしていいってことだろ?」


ふいとイノリの体が離れたかと思えば、顔を覗き込まれた。
綺麗な顔があたしを見つめたかと思えば、ゆっくりと近づいてくる。
大きな瞳がそっと閉じられ、半開きの艶やかな唇があたしに唇に……


「ち、違うと思うぅぅぅぅぅ!」


それは早すぎ! 心の準備もなくそんなことしたら心臓発作で死んでしまうからぁぁ!
唇の接触を回避しようとした、その時だった。


「うん、違うねえ」


ふいに、のほほんとした声が混じった。



へ? 誰?



「こんな場所で嫌がる女の子に何してるのかなー、祈」


カッ! と光が照らされる。
眩しさに目を細めて見た、その光の発生源を持っていたのは、他でもない加賀父だった。


「ひ、ひゃぁぁぁあああぁあぁぁ!」


な、なんということ!
こんなシーンを見られた!?

さっきまでの恥ずかしさとは別の恥ずかしさで死ねる。
ていうか死にたい。今回はもう穴掘って埋められたいくらいに死にたい。

死なせてつかあさい。
このまま死なせてつかあさい。


情けない声を上げたあたしとは違い、イノリは不機嫌そうに唸った。


「タイミング見てただろ、オヤジ……」

「いやー、どこで声かけたらいいのかわかんなくてさー。ここかな、と思ったんだけど、違った?」

「全っ然違うだろ」