いつかの君と握手

口を開こうとする前に、イノリの声に阻まれた。


「ほら、前見て見ろよ。ミャオ」

「あ、うん」


懐中電灯で照らせば、木々の向こうが開けた先に、アスファルトが現れた。
こんな目に合う羽目になった原因の看板が姿を見せた、かと思えばイノリが足でがっこんと蹴とばした。
獣道を差していた矢印が本来の方向に戻される。


「よし。とりあえずはこれでいいだろ」

「うん」


些か乱暴だが、あたしのような迷い子が現れてもいかんしな。


「もうすぐ寺だから。もう少し我慢してくれな」


あたしを背負い直したイノリが言った。


「重たいよね? ごめん」

「いや? これくらい、なんてことねーよ」

「でも」

「ホントに平気だって。ミャオ一人くらい背負えなきゃ、でかくなった意味がねえ」


ふ、とイノリが笑った。
その言葉に、ドキリとした。
イノリはまだ、あたしを待っていてくれた気持ちを、持っている、だろうか。

だとしたら、すごく、嬉しい。
そうであってくれますように。


「あ、のさ」

「ん?」

「ええと、その」

「なんだよ」


何も通らない、静かな道をイノリは歩く。
その背中に顔を寄せて、あたしは一度深呼吸した。

言わなくては。


「あの、さ。穂積とは、何でもないから」


イノリの足が、ぴたりと止まった。


「元々、穂積にも呼び出しのことは言うつもりなかったんだ。たまたまバレてしまっただけで。助けてとか言って頼ったわけじゃない。穂積が好意で傍に付いてくれてて、それを無碍にできなかったっていうか、断りきれなかったっていう言うか。いや、何度も断ったんだけど」


夢中で言葉を重ねた。
ここまで来たのは、この為なのだ。
自分の口からはっきり言っておかなければならない。
うやむやで済ませたくなんかない。