いつかの君と握手

イノリの背中にくっついて、鼓動を感じながら、一番近いところで言葉を聞く。
どうしてだか泣きそうになって、ただ黙っていた。


「ありがとな、ミャオ」

「……たいしたことしてない、って何回も言ったじゃん」

「したんだって何回も言っただろ」


サクサクと力強い足取りでイノリは進む。
懐中電灯の光は歩みに合わせて揺れた。


「なのに、ごめんな」

「え?」

「柘植から、全部聞いたんだ。目の怪我のことも、何もかも」


あたしがイノリの元に向かっているという話を聞いた時、イノリはそれを信じず、「迷惑だ」と言い捨てたのだそうだ。
本当だって言うなら田中にでも連れ帰らせろよ、とも。

それを聞いた琴音は、もう隠すの嫌だ! と怒り、全てをぶちまけたのだそうだ。

『大澤くんに嫌な思いさせないように一人で抱え込んでたんだよ? ミャオちゃんに謝って!』

そう叱り飛ばされたらしい。


「ごめん、俺がミャオの話をちゃんと聞いてればよかったんだ」

「あ、いや、隠してたのはあたしだし。イノリが悪いわけじゃないよ」


慌てて言う。
隠したくってみんなに黙ってもらうようにしたのは、他でもないあたしなんだから。


「信じようとしなかった俺が悪いんだ。ミャオを疑った」


いや、あの写真を見れば、仕方ないと思う。
元々それが目的で撮られたんだし。


「でも、やっぱり言って欲しかった。俺のせいでミャオが痛い思いするのはもう嫌なんだ」


イノリが、ぽつんと言う。その声音に怒りや苛立ちはなくて、どこか寂しげだった。


「それにさ、何も知らないで責め立てるって、情けねえよ。事情知らずに文句並べ立てるなんてさ」

「ごめん……」


イノリの言ってることは、分かる。
あたしが同じ立場だったら、と考えたら、「言えよ!」と責めたと思う。
知らされなかったことを、悔しく思うはずだ。

あの時は、そんなことまで思い至らなかったけど。


「知らねーせいで、あんな顔させちまったしな」

「あんな顔?」

「今日の昼だよ。ミャオ、すげえ悲しそうな顔、しただろ」


そうだった、だろうか。
ショックは受けたけど、そんなにあからさまだった?


「言い訳するみたいだけど、言いすぎたって思ったんだぞ。でも、お前の後ろに田中が立ってるの見たら、もうどうしようもなくてさ」

「あ! あの、そのこと」

「お、そろそろ道に出るぞ」