いつかの君と握手

琴音の横には、呼び出されたらしく、ケンくんがいた。
いざとなったらあたしの捜索に行って来いと言われたらしい。

なんてこった、ケンくんにまで迷惑をかけていたとは。

平身低頭で何度も謝罪すると、ケンくんは『よかったよかった』とのほほんと笑ってくれ、今度、山中で遭難した場合の対処法を教えてくれると言った。

今までは、そういうお誘いは遠慮していたのだが、半月ほどの間に二度も遭難しかけた身としては、本気で勉強しておいた方がいいのかもしんないと思い、ぜひとも、とお願いした。

まあ、こんな思いは二度と御免だけれども。

琴音には後でまたゆっくり連絡することを確約し、ケンくんにもお礼を言って電話を切った。


「よし。とりあえず、帰ってその足の手当てしようぜ。ほら」


イノリがあたしに背中を向けた。


「おぶされ。その足じゃ歩けねえだろ」

「あ。え、と」

「なんだ? まだ、恥ずかしいとか嫌だとか言うか?」


くすりと笑ってイノリが言う。


「うう、ん。あの、お願いします」


昔の名残のない、大きな背中にそっと体を預ける。
腕を回し、イノリの胸元辺りで手を組んだ。


「お。素直でいいな。よ、と」


あたしの重さなど厭う様子もなく、イノリはひょいと立ち上がった。
転がっていたバッグを拾い上げ、懐中電灯をあたしに渡した。


「これで照らしてくれな」

「うん。あの、道、分かるの?」

「ここら辺はもう庭。休みのたびに来てたから」

「そっか」


言葉通り、イノリはどの方向に行けばいいのか分かっているようだった。
迷いなく進んでいく。
イノリの足元を照らしていると、ふっと笑う声がした。


「なに、イノリ?」

「や、9年前と逆だなって思って」

「あ。うん……」


あの時は、あたしの背中にイノリがいた。
小さな体の重みはまだはっきりと覚えている。

けど、その立場ははっきりと逆転していた。


「あの時のミャオはすげえ大人に見えてて、背中もでかくってさ。早くミャオよりでかくならなきゃ、って思ったんだけど……こんなにちっちゃかったんだな」

「…………」

「こんなにちっちぇえ体で、俺を助けて守ってくれたんだよな」

「…………」