いつかの君と握手

「みんなに、迷惑かけたよね……?」

「そうでもない、オヤジとじいさんくらいかな。
今9時前なんだけど、9時過ぎてもミャオが見つからなかったら、近所の人たちに頼んで捜索手伝ってもらうつもりだったから」

「そ、そっか……」


よかった。たくさんの人に手間を取らせてたとしたら、申し訳なさすぎる。
でも、加賀父と織部のじいさんには心配かけたんだ。きちんと謝らなくちゃ。


「あ、いや柘植がいた。今頃半泣きでケータイ握ってんじゃねえかな。ほら、かけてやれよ」


イノリが渡してきたのは、無くなったはずのあたしのケータイだった。


「あ! これ」

「例の立て看板の前で光ってたんだ。柘植が何度も電話してたみたいだから、それが幸いしたんだな」

「ありがとう。あれ? ねえ、どうしてあたしがここにいるってわかったんだ?」


聞けば、あたしからの連絡がないことに焦った琴音は、イノリに電話したらしい。
そして、あたしがイノリに会いに行くと言ってから連絡が途絶えたと泣きついたのだそうだ。

驚いたイノリは寺前のバス停であたしを待ったが、来ない。
織部のじいさん家かもしれないと連絡しても、来ていないと言う。
もしかしたら裏側のバス停じゃないかと思い、急いで向かったのだそうだ。


「でも、バス停まで行ったんだけど、姿がねえだろ。一本道なのにおかしいなと思って後戻ってたんだけど、道の端っこで点滅してるものに気が付いて、拾い上げたらケータイでさ、見たらあの待ち受けだろ」

「あ」


9年前のあれか。


「ミャオのケータイじゃん、と思って周囲を見てもいないし。もしかしたら変な奴に攫われちまったんじゃねーかとかすげえ焦った」


イノリは狼狽えたものの、山道に向かって矢印を向けている看板に気付いた。
もしかしてこっちに行ったのかもしれないと思い、そのまま中に入っていたんだそうだ。


「そ、か。そういうことか」

「おう。まあ、俺の勘もたいしたもんだろ。絶対見つけるって思ってたからな」

「あ、うん……」


へへ、とイノリは満足げに笑う。その言葉が胸を打ち、なぜだか真っ直ぐ見られなくて、ふいと顔を逸らした。


「お、と。それよりさ、早く柘植にかけてやれよ。でないとあいつ、今にでもこっちにやって来かねない」

「あ、うん」


琴音は、コール音もしなかったほど早く、電話を取った。
あたしの声を聴くと同時に、声を上げて泣く。


『じ、じんばいしたのおおお』

「ん、本当にごめん。でも、もう大丈夫だから」