いつかの君と握手

がさりと現れてあたしを見下ろしたのは、イノリだった。
懐中電灯の光が、あたしの顔を照らして、まぶしさに顔を顰めた。


「ミャオ! 動くなよ!?」


言うなり、飛び下りてくるイノリ。
あたしの前にとすんと着地した。


「あ……、えと。なんで、ここ」


にいるってわかったんだ? そう聞こうとしたのに、言えなかった。
泣きそうに顔を歪めたイノリが、あたしを強く抱きしめたのだ。

息を切らした体に、力任せに抱きしめられる。
あたしをすっぽり包んだ腕の中は、汗の匂いがした。


「馬鹿か、あんたは!」


頭の上でイノリが叫び、びくりとした。


「何でこんなとこにいるんだよ! 考えなしに行動するんじゃねえよ!」

「あ、あの……」


くっついた体はぜいぜいと息を荒くしていて、そして微かに震えていた。
あたし背中に触れた手は服をぎゅうと強く握っている。


「馬鹿だ、大馬鹿! どれだけ心配したと思ってんだ!」

「は、はい……」


不機嫌そうだったり、苛立ったりしたところはよく見た。
けれど、こんなに激高して怒鳴るイノリを見るのは初めてだった。

イノリの言うとおり、馬鹿、だ。考えなしだった。


「ごめん、なさい」


素直に、謝罪の言葉を口にした。
どうしてここに来てくれたのか、分からない。
けれど、イノリがすごくすごく心配してくれていたのは、痛いほどに分かった。


「ほんとに、ごめん……」

「無事ならもういい。よかった」


心から安堵したような優しい声。
優しく頭を撫でられて、張っていた気がぷつんと切れる感覚があった。
止まっていた涙が、堰を切ったように再び溢れる。
頬を、涙の粒がころころと転がり落ちた。

声を殺して泣き出したあたしに、イノリが驚いたように体を離した。
顔を覗き込む。


「ど、どうした、ミャオ? 俺言い過ぎたか? ごめん」


首を横に振る。


「でも、泣いてる。ごめんな」

「あ」

「ん? なんだ、ミャオ」

「安心、しただけ」