いつかの君と握手

時間が経つにつれ、動かしてもいないのに、左足首がずっきんずっきんと痛みを訴えるようになった。

い、痛い……。


「うー、情けない……」


余りに痛むので、眠って現実逃避というのもできない。
気休めに、ペットボトルを足に当てているものの、大した冷却効果も得られなかった。


「はあ……」


ため息をついて、夜空を見上げる。
親睦旅行の夜にイノリと一緒に眺めたのと同じような、綺麗な星空だった。
暗闇ばかりの地上を見ているより、よっぽど心穏やかになれそうで、あたしはぐいと顔を上に向けた。

本当だったら、数日後にはイノリとこの夜空を眺めていられたのだろうか。
綺麗だねーなんて言って、笑いあえていたのだろうか。
だったとしたら、すごく残念で、悲しい。


いや、でも。
『茅ヶ崎さん』とあたしを呼んだイノリの声が蘇る。


イノリはもう、あたしのことなんてどうでもよくなってしまったかもしれない。
元々、9年前にちょっと仲良くなっただけなのだ。
大きくなって、関わり合うにつれ、こんなはずじゃなかったと思ったかもしれないし、あれをきっかけに幻滅したということも十分考えられる。

取り柄のないあたしを9年間も覚えていてくれたというだけでも、すごいことなんだから。
嫌われる可能性なんていくらでもある。

イノリの周囲には、それでなくともたくさんの可愛い女の子がいるのだ。
あたしなんて、彼女たちの中じゃ埋もれきってしまう。


『イノリくんに想われてただなんて、おかしくない?』


昼間の葵ちゃんの言葉。
確かに、たったあれだけのことで想われていただけでも、おかしなことだったのかもしれない。

イノリもそれに、気が付いたかもしれない。
想うに値しない女だった、って。


「それは、寂しいなあ……」


ようやく自分の気持ちに気付いたと言うのに、遅すぎた。


「……っ! うあ、なんだこれ」


星空が滲んできたと思ったら、湧きあがった涙のせいだった。
頬に涙が伝っていて、びっくりする。
慌てて拭いた。


「び、びっくりした。あれか。こんなトコに一人だから、ちょっと不安定になってんのか!?」


そうだ、きっとそう。
あたしがこんなことで泣くわけがない。
こんな事態になったもんだから、不安になってんだ、うん。


「あー、もう」


どうしてだか、涙が止まらない。
ぐいぐい拭いても、それでも溢れるのだ。

こんなの、初めてでどうしていいか分かんない。