いつかの君と握手

しばらく進むと、一本道だったその脇に、看板があった。
『柳音寺→コッチ』の看板。

が。この看板の矢印、メインの道ではなく、山の中を差しているのだ。
みれば、確かに獣道のような空間が奥に向かって伸びている。


「まじでここかよ、おい」


すげえ不安なんですけど。
本当にここなわけ?

おばあちゃん、そんなこと一切言ってなかったんですけども!


「ど、どうしよう」


自分が歩いてきた道、その先の方を見る。
定期的に外灯はあるけれど、民家の気配は未だない。

この先に進んでも、もしかしたら何もないかもしれない。

しかし看板を見れば、自信ありげに獣道を差している。


「うー……む。よし、お前を信用しようじゃないか。こっちなんだな!?」


確か、メッセンジャーバッグに懐中電灯を入れっぱなしだったはず。
奥底に転がっていたやつを引っ張り出そうとしてもぞもぞしていると、中身を盛大にぶちまけた。


「ぬあ! 最悪!」


拾い上げて適当にバッグに押し込む。
転がっていた懐中電灯のスイッチを入れ、その僅かな光を頼りに、獣道へ足を踏み入れた。



……失敗した。
看板が、ズレてたんだ。

そう思った時には、あたしは道から大きく逸れていた。
獣道は本当に頼りないもので、間違いなくこれだと思って進んでいたのに、振り返って見ればそこに道なんて存在していなかったのだ。


「か、神隠し!?」


違う。
どこからかは分からないが、進みやすそうな部分を歩き進んでいたら道を外れたんだろう。


「うーん、遭難、か……」


困った。
こんなことになるとは想定外だった。


「助け、といっても誰に連絡すりゃいいんだ」


琴音? いやいや、ただでさえ心配してるのに、連絡なんてできんよな。
じいちゃん? いやいや、琴音の家に行くって言って出てきてるしな。


「うー、ん」


腕を組んで悩んだものの、名案は出ない。


「イノリ、といっても、でてくれんだろうしなあ……」


ふう、とため息をついた時、ふと遭難した時のことを思い出した。
あの時は、結構近くに柳音寺があったんだよね。
もしかしたら、今回もまたそんな感じで、少し歩けばお寺が! 的なことになるかもしれない。