「どこかで会ったような気がするだが。ええと、どこだったか……」

「あ、あの。あたし、茅ヶ崎、美弥緒、です」


覚えて、いるだろうか。
ていうか、覚えていたとしたら、完全に妖怪の類扱いだろうか。

しかし、誤魔化すと言う選択はないと思ったので、どきどきしながら自己紹介した。


「以前、織部のじい、織部先生の家でお会いした、んですが」

「あ」


ぽかんとした大澤父だったが、その後に目を見開いた。


「な……。まさか、あの話本当だったのか!? 一心の戯言だと思ってたのに!」

「へ?」

「いや、聞いてたんだ、あいつから。でも信じられなくて、すっかり忘れてた。
じゃあ、あれは本当だったのか。タイム……」

「はい」


加賀父が説明していてくれたらしい。
ほっとして頷けば、大澤父は子供のように無邪気な笑みをみせた。


「すごい、なあ。そうか、君はあの時、時空を超えて祈を助けてくれていたのか」


「い、いや、そんな大層なことしてないんですけど」


照れる。
こんな素敵な男の人から笑みを向けられて、動揺しない人間なんていないだろう。


「いや。あの時は本当にありがとう。ずっとお礼が言いたかったんだ。
さっそく上でお茶でも、と言いたいんだが、私はこれから出かけなくてはいけないし、それに、祈に用があったんだろう?」

「あ、はい」

「祈は学校から帰ってきてすぐに、一心のところに行くと言い出して、随分前に家を出たんだ。今頃はもう隣県に入っているところじゃないだろうか」

「ええ!?」

「急だろう? 気紛れに振り回されるこっちの身にもなって欲しいものだよ」


加賀父の所と言えば、あそこか!
遠すぎ!


「あ、あの。いつごろ、帰ってきますか?」

「うん? ああ、いつかな。長期の休みは、向こうに長くいることが多いからな」

「そ、そうですか……」


どうしよう。電話にも出てもらえないし、このままじゃしばらく誤解されたままじゃないか。


「美弥緒さん、だったね」

「あ、はい」



「祈が帰ってきたら、一緒に食事をしよう。あの時の話を、君の口から聞きたいんだ。どうだろう?」


にこり、と笑いかけられて心臓が跳ねあがる。
あーもう、たまんないっす。