「と、とにかくイノリに電話してみよう」


妙に焦ってしまい、すぐにでも誤解を解かなくてはと思う。
ケータイを取りだし、イノリにコール。

3、4、5コール。
やっぱり、でない。


「拒否、だよなあ」


やっぱり。
あんなに怒ってたんだ、何度かけても出てもらえそうにない気がする。
じゃあ直接会うしか、って登校日は十日以上先だし、家知らないし。


「えーい、くそう。召喚、三津!」


仕事中じゃありませんように!
祈りを込めてかけた三津サマは、ワンコールで出た。


『はいよー。どした、みーちゃん』

「イノリん家教えてぇぇぇっ!!」

『は?』

「イノリに話さなくちゃいけないことがあるのー! 至急なの!
お願いします、三津サマ!」

『お? おお』



そうして、三津に教えてもらったあたしは、その足でイノリの家に向かうことにした。
こうなりゃ、直接会って謝るしかねえ。
『どうしたどうした』なんて三津は騒いでいたが、それは後回しで切らせてもらった。


緑も豊かな公園では、セレブぽい奥様たちが日傘を差して談笑している。
かわいらしい子供たちが楽しそうに遊具で遊んでいるその前に、イノリの住んでいるというハイソなマンションがそびえ立っていた。


「ここ、か……」


気後れしそうなくらいオサレな外観のそのエントランスに、あたしはどきどきしながら足を踏み入れた。


「確か、5階だよね。て、あれ、ここどうやって入んの?」


こんなとこ、縁がないから分かんない!
田舎者ですんません!

もたもたしていると、開かずの自動ドアがふいに開いて、一人の男の人が出てきた。
うわ、あたし、怪しい女ぽいかも、と端っこに身を寄せれば、通り過ぎようとした男の人が「おや」と声を上げた。


「その制服……、祈のお友達かな?」

「は?」


顔を見て、息を呑んだ。
そこに立っていたのは、スーツ姿も眩しい、大澤父その人だったのだ。

ひぃやはぁぁぁぁあああああああ!

か、かっこよさ倍増! 渋み倍増! 素敵! 素敵!
9年の歳月はすげえよ、もうマジで!


「あ、れ? 君、どこか、で……」


穏やかなな笑みを浮かべていた大澤父が、眉根を寄せた。