いつかの君と握手

え。えー、と。

イノリのことが好き、ということでいいのだろうか。
で、邪魔なあたしを排除した、とそういう感じ?


なんだか、信じられないんだけど。
だって、この葵ちゃんがそんなこと考える?
盗撮とか、絶対しそうにないじゃん。

いや、結構悪し様に言われたけどさー。
手にはカメラ持ってるけどさー。でもさー。


「でも」と葵ちゃんがぱっと顔を明るくした。

「祈くん、美弥緒ちゃんへの気持ちも冷めちゃったみたいだし、計画通りだから、今はよしとするわ。
美弥緒ちゃんもさ、穂積くんは手に入れられたんだし、満足だよね?」

「は?」

「穂積くんだって充分かっこいいし、優しいもん。いいよね?
だから、二度と祈くんに近づかないでね」

「え?」

「祈くんに近づかないでって言ってるんだってば。いっそのこと、嫌われたままでいてくれる?」


嫌われた、ままで?
反射的に、口が動いていた。


「それは、できない」

「え?」

「無理。あたし、イノリが好きだもん。誤解、解く」


嫌われたままなんて嫌だ。
今すぐにでも、誤解を解きたい。違うんだって言いたい。


「穂積にもさっき言った。あたし、イノリが好きなんだ」


一瞬固まっていた葵ちゃんの顔が、ぐ、と険しくなった。
形のいい眉が形を変える。


「は? 何て言った?」


超低音の呟き。それは葵ちゃんの口から紡がれたものとは思えなかった。
瞳が真っ直ぐにあたしに向けられる。
その視線の力強さはあたしを睨み潰そうとするかのようだった。


「何、身の程知らずなこと言っちゃってんの、あんた」

「二股みたいに思われてたのは、ごめん。でも、あたしは好きなのは」

「ブスが調子に乗らないでくれる? 発情しても全然綺麗じゃないんですけどー」


この場面で、葵ちゃんはあはは、と声高く笑った。
と思えば、あたしに視線を向ける。


「魔物だか何だか知らないけど、祈くんに近づかないでって言ってるの。
あんたはあんたに似つかわしいレベルの男と遊んでりゃいいでしょ」


……え。えーと。茅ヶ崎美弥緒、妖怪から魔物にシフトチェンジしました☆
ではなく。

こ、こ、こえええええええ!
美少女というものは笑顔が最強の武器だと思っていたが、訂正。
憤怒の形相が、最強だ。
綺麗なものは、怒りが滲むと凄惨な美しさに昇華するのだ。
自分が言われた言葉より、その顔つきに恐ろしさを覚えたあたしであった。
しかし、ここは譲れない。
あたしだって、自分の気持ちに気付いた以上はこのままではいられんのだ。