いつかの君と握手

しかし穂積は、冷静だった。落ち着いた声で訊く。


「全部君ひとりの計画なの?」

「ひとり、ってどういうこと? 呼び出しのことなら、理恵たちが勝手にやったことだよ。私はそれを止めないで、利用しただけー」

「止めなかった?」

「うん。真っ先ににざまーみろって思ったし?」


あの時どこかから見てたんだろうとは思っていたが、計画の時点から知っていた?
しかも、ざまーみろ?
そのかわいいお口が言いました?
と、葵ちゃんがあたしに綺麗な笑顔を向けた。


「ブサイクが祈くんに想われてるだけでも腹が立つのに、他の男と二股だもん。制裁されるのは当たり前だよ。美弥緒ちゃんも、その辺りは勿論納得してるよね? 反省してくれてるといいんだけど」

「え? い、いや」


ぽんぽん反論したし、理恵には言い過ぎたかなと思っているが、だからといって「アレ」が当たり前のことだとは思えないんですが。
しかし、この笑顔で暗黒告白してるなんて、嘘だろ?

腕のいい声優さんが後ろでアテレコでもしてるんじゃないのこれ。
すんまっせーん、ちょっとでいいんで出てきてもらえませんかー。


「じゃあ、呼び出しは置いておいて。写真は? 一人でやったの?」


穂積は葵ちゃんに冷ややかな視線を向けつつ、淡々と訊く。
それに気付いているのかいないのか、葵ちゃんはまたもやこっくりと頷いた。


「そこはね、頑張ったんだよー。写真撮るのも大変でね。仲よさ気に見えるアングルっていうの? すっごく難しくってー。カメラマンも大変なんだなってよく分かった。
あ。あれ上手く撮れてるでしょ。焼き増ししたげよっか?」

「……な、なんで? なんでそんなことしたの?」


ようやく声を振り絞って聞けば、きょとんとした葵ちゃんは軽蔑したような眼差しをあたしに向けた。
敵意のこもった視線にたじろぐ。


「美弥緒ちゃんって、本当に理解力ないよね。だからー、祈くんの目を覚まして、美弥緒ちゃんから離れてもらうためだってば。
穂積くんと美弥緒ちゃんがくっついてしまえば、祈くんの目も覚めるでしょ?」

「くっつくって、いや、その」

「このさいだから言っておくけど、美弥緒ちゃん、自分の程度くらい把握してるよね?
祈くんに似つかわしくないよね? なのに、一時でも想われてたって、おかしくない? おかしいよね? 目を覚ましてもらおうって頑張った私の努力、わかってくれる?」

「は、あ、いやその、わかるとかわかんないとか」


程度、というのは話の流れ的に顔面レベルのこと、ですか。
いや、そりゃ低いですけども。さっきブサイクってはっきり言われちゃいましたしね。
余りにきついことを言われすぎて、もごもごとしか答えられない。
そんなあたしに、葵ちゃんは言葉を重ねた。


「美弥緒ちゃんは、祈くんにふさわしくない。祈くんにふさわしいのは、私しかいないんだよ。横に並んでも、恥ずかしくないもん」


とてもかわいらしい笑顔。確かに、あたしなんか足元にも及ばない。
その天使のような笑顔が、ほんのりと影を帯びた。


「まあでも、祈くんってばまだ気付いてくれないんだけどさ。美弥緒ちゃんなんかに寄り道しちゃうし」