いつかの君と握手

「な、なに?」

「大澤に呼び出しの件を頑なに言わないのは、どうして?」

「え?」

「さっきさ、言っていれば誤解は解けたよね? 大澤のこと好きな女の子たちに呼び出されたからだ、って言えば、大澤はきっとあんな風に怒らなかったと思うよ。
どうしてそこまでして、秘密にしようとするの?」


内密にしようとした理由。
そんなの、簡単だ。

自分のせいだってあいつは思うから。
自分のせいで怪我させたって、傷つくから。

あたしの足の怪我を、あんなにも申し訳なさそうにしていたのだ。
それが、暴力を受けたとなれば、あたしも悪かったと言ったとしても、きっと傷つく。

だから、言いたくなかった。


「い、嫌な思い、させたくなかった、んだよ」

「なんで? 大澤のせいでもあるんだよ? 考えなしに君に向かっていくから不満を買ったんだ」

「そう、かもしれないけど、傷つくっていうのが分かってて言うのも、さ」

「傷つけたくない、って? 自分はあんな怪我したのに?」

「あたしはホラ、自業自得な面もあるし」

「何言ってるの? 被害者だろ、美弥緒は」


穂積の問いかけが、厳しい。
どうして今日はこんなに問い詰めてくるんだろう。
しどろもどろになっていると、穂積がため息をついた。


「もう、回りくどいのは、いいや。一旦はっきりさせてしまおう。
大澤のこと、好きなんだろ?」

「は?」


俯いていた顔を上げると、そこには穂積の真剣な顔があった。


「オレは別にそれでも構わないんだ。そこから気持ちを自分に引き寄せればいいだけだから。
認めなよ、美弥緒。そうでなきゃ話は進まない」

「あ、え? あたしが」

「そう。君は、傷つけたくないと思うほど、あいつを大事に思ってるんだよ」



――あたしが、イノリを、好き?



ざああ、と頭の中をイノリが巡る。

小さなイノリ。
大きなイノリ。

どちらも、屈託なくあたしに笑いかけてくれる。
『ミャオ』、と呼んでくれる。
繋いだ手は、小さかったり大きかったりしたけど、どちらも温かかった。


『じゃあな、茅ヶ崎さん』


そんな呼ばれ方、されたくなかった。
やっぱり、『ミャオ』って、いつもの声音で。
いつもの笑顔で。