いつかの君と握手

「今は、あたしがやきもきしても仕方ないもんね。今日はとりあえず、帰るよ」

「そうしな、そうしな。お疲れ」


琴音の背中をとんとんと叩いた。


「ほら、せっかくの美肌が焼けちゃうから、帰りなよ」

「やだ、美肌じゃないもん。でも、うん、帰るよ。また連絡するね?」

「うん。部活が休みの日にでも遊びに来なよ」

「当たり前だよう。じゃあ、帰るね。穂積くんも、ばいばい」


琴音が離れた場所にいる穂積に声をかけると、待たされていた穂積はにこ、と笑った。


「うん。じゃあね。また、登校日に」

「じゃあね、ミャオちゃん」


帰路に就く琴音を、穂積と並んで見送った。
その姿が小さくなってから、穂積に顔を向ける。


「穂積も、今日はつき合わせちゃってごめんね。ありがとう。
あ、バス停向こうでしょ? 行きなよ」

「いいよ、家まで送る」

「いいっていいって。真昼間で人の往来も多いんだし、大丈夫」


それに、あんな騒動があった後だ。
もう、あたしに攻撃しようなんて考える人間もいないだろう。
へへ、と笑ったあたしに対し、穂積は首を横に振った。


「もう少し、美弥緒と一緒にいたいだけだよ。送らせて」

「あ、いや、その」


どうしてそういうことをさらさらと言うかな、この人は。
本当に、慣れない。
もごもごとしていると、背中に手が添えられた。


「さ、行こう」

「あー、と。あのさ、穂積」

「ん?」

「ホントに、いい、から」


手の平から逃げるように、す、と離れた。


「だいじょうぶだから、ホントに。あの、色々ありがとう」


ぺこんと頭を下げると、穂積がふうん、と呟いた。


「オレを避けてるんだ? 大澤にこれ以上勘違いされたくないから」

「!! うあ、いやあの」

「大澤に拒否されたくないんだよね? 傷ついた顔してたもんね」

「あーと、その、だな」


狼狽える。琴音以上に、自分の内面を見透かされている気がする。
あたしを見下ろした穂積は、「一つ訊いてもいい?」と言った。