HRが終わると同時に、イノリは教室を出て行こうとした。


「イノリ!!」


慌てて追いかけて、服の裾を掴む。
誤解を解かなくては。

しかし、イノリは冷たい一瞥をあたしに寄越した。


「離せよ。田中のとこ行けば」


乱暴に手を振りほどかれる。


「違うんだってば!」

「もういいって。もう、どうでもいい」

「どうでも、って……」


突き放されて、呆然とする。
イノリにこんなにも拒否されることなど、なかった。
あたし、嫌われてしまったんだ……。


「じゃあな、茅ヶ崎さん」


他人行儀な名を言い捨てて、イノリは行ってしまった。


「行っちゃったねー」


のんびりとした穂積の声に振り返る。
あたしを見下ろした穂積は、小さく笑った。


「……そんな顔、しないでよ。オレは君を庇いたかっただけなんだ」

「え……、あ、あの。そうだ、あの写真……」

「びっくりしたよね。やりすぎてる子がいるねー」


ふう、と息を吐いて、穂積はあたしに教室に入るように促した。


「とりあえず、こっちで話そう。琴ちゃんも待ってる」

「あ、う、うん……」


視線を戻す。廊下に、もうイノリの姿はなかった。
胸がちくりと痛む。
喉に熱い塊がこみあげてくる。
イノリ……。


「ミャオちゃん? ほら、写真のこと、話そ」


動こうとしないあたしを訝しく思ったのか、近づいてきた琴音にくい、と服の袖を引かれた。


「あ、ああ、ごめん。ちょっとぼんやりしてたみたい」


曖昧に琴音に笑い返すと、心配そうに顔を歪められた。
そんなに、情けない顔をしているのだろうか。


「3人でさ、誰がどんな目的であんなもの渡したのか、考えよ?」


そうだ。そこは明らかにしなくては。
じゃないと、イノリに説明もなにもできない。

胸の中のもやもやを振り払うように、頭をぷるぷるっと振った。