「あのさ、止めてくれない? あたし、そういうの苦手でさ」


声音が少し弱くなってしまったのは、否めない。

だってそっくりってあれでしょ。ドッペルゲンガ―とか言うやつ。
自分の見たら死んじゃうんだよね。某大国の暗殺された大統領もさ、死ぬ前日だかに自分のドッペルゲンガーを見たとかって話、小学校の時に本で読んだ記憶があるもん。

やだやだ、死にたくない。つーか第一に気持ち悪すぎる。


「…………一緒、なんだ」

「マジで止めてってば!」


怖さなどの負の感情が大きくなると、怒りに変換されるのらしい。
真面目に呟く大澤に、一層の恐怖を感じてしまったあたしは、逆ギレなるものを起こしてしまった。

だいたい、こっちは記憶にないのに相手は知っている風なのも、不愉快だったんだ。
たまたま、とか偶然、とか自分に言い聞かせてどうにかごまかしてきたというのに。
もうダメだ。我慢できない。


「知らないものは知らないって言ってるじゃん! 嫌がらせのつもり?
アンタは人に不快感与えて楽しいわけ? 最っ低だな!?」

「いや、俺は」

「もうあたしのこと見んな! 声かけんな! 次にあたしに関わったら容赦なく殴るから。覚悟しときな!」


さっさと駅に行こう。
こんな奴構ってらんない。

傘とバッグを掴み、バス停を後にした。


「待てよ。話聞けよ」

「アンタの話なんて聞かない。聞きたくない」


すたすた歩くあたしの後を、大澤が追いかけてくる。


「聞けって。ミャオ」

「はあ!? なんでアンタがその呼び方するわけ!?」


怒りが満ち満ちて、爆発した。
振り返りざまに、傘を思いっきり大澤に投げつけた。
つもりだったが、ふわりと浮いたそれはぼとんとあたしの足元に落ちた。ころころと頼りなく転がる。

ムカつく!
傘くらい言うこと聞け!


「ちゃんと話したほうがいい。だから」

「聞くことなんてない!」


傘を拾い上げて、車道の向こう側、反対側の歩道に渡ろうとした。
行き先を変えることはできないから、せめて距離を取ろう。


「絶対追いかけてくんな!」


吐き捨てるように言って、車道を渡ろうとした。




――道を渡るときは、車が向かってきていないかきちんと確認しましょう。
確認できたら、手を挙げて渡りましょう――