いつかの君と握手

「ひゅーひゅー。ネコ! お前家の前でラブシーンか、このう!」

「っ!? じいちゃん、家に引っ込めコラ!」


ドアの隙間から、つるっぱげヤクザみたいなじいちゃんが顔を覗かせていた。
にまにまと笑う愛嬌のない顔を、ギロリと睨みつけてやった。


「つーかひゅーひゅーって古いんだよ! 何時代だよ!」

「わし、昭和の男じゃもん。しかしネコ、面食いだのう。
あ、君、ネコ泣かしたらいかんよ? わし、怒るよ?」

「はい、大事にします」

「じゃもん、じゃねえ! つーか穂積、会話しなくていいから!」


ここにいたらじいちゃんが止まらん。
穂積の手を掴んで、じいちゃんの視線を背にしながら家を離れた。


「もう、いいかな……?」


だいぶ離れたところで振り返ってみる。
よし。

穂積の手を離して、謝った。


「ごめんなー。男が迎えに来た、ってじいちゃん興奮しちゃったんだと思う」

「面白いおじいちゃんでいいね。ていうか、手、離しちゃうの?」


言って、穂積はあたしの手をきゅ、と握った。


「せっかくだし、繋いでおこうよ。美弥緒がこけたりしたら大変だし」


「ふあ!? い、いや、いいです! 遠慮します!」


慌てて手を離した。


「大丈夫だから! もうすんげえ気を付けて歩くから!」

「えー、残念」


ちぇ、と笑って、穂積は「とりあえず学校いこっか」と言った。



あれから。
急にずっきんずっきんと痛みだした左目は、涙はぼろぼろ溢れるわ、目も開けていられないわという状態になった為、学校近くの眼科に駆け込んだ。
診察の結果、眼球に傷がついていることがわかった。
まあ、視力低下などの問題はないと言われたので安心なのだけど、数回通院することになってしまった。

こないだまでは捻挫で通院してたというのに。
病院となかなか縁の切れない生活が続くあたしであった。

で、目の保護の為に眼帯をつけることになったのだが、これが非常に不便。
片目だけというのは遠近感が狂うのだと初めて知った。
家の階段を踏み外しそうになるし、さといも摘まめないし、ストレスが溜まって仕方がない。

悪い海賊(あれ? 海賊って元々悪いんだっけ?)のキャプテンがテンプレ的に眼帯しているのを見かけるが、こんなに遠近感ちゃめちゃになってしまうのに、大丈夫なのだろうか。
進めー! なんて船員に指示出した先にはでっかい岩山とかあってさー。
キャプテン、座礁しそうです! みたいな。
船襲う前に自滅、とかありえるんじゃないの。


いや、そんなことはいい。
とにかく、こんなもん、捨て去ってしまいてえのだ。
見えにくいったらありゃしないのだ。