いつかの君と握手

ピンポン、と軽やかに玄関のチャイムが鳴った。


「朝から客とは珍しいの」


あたしより先に食事を終えたじいちゃんが、よっこらしょと立ち上がって玄関に向かった。
「誰ですかいのー」という間延びした声を聞きながら、味噌汁を一口。
うーん、なめこと豆腐って最強の組み合わせだな。

あ、さといもの煮っ転がしがあるじゃん。これ、好きー。
って、箸が空振りする! さといもが幻のように掴めぬ!


「てい! とお! あ、挟めた!」

「ネコー! 迎えじゃぁぁぁ! 学校行って来んかぁぁぁぁぁ!!」


さといもをようやく摘み上げたと思ったら、年寄りとは思えないスピードで戻ってきたじいちゃんが、手刀で箸を叩き落とした。
汁椀の中に転がり落ちていくさといも。

ああああああ! さといも!! ってか痛い!!


「行って来い! このう、色づいてからにー!」


訳のわからないまま通学用のバッグを押し付けられ、追われるように家から放り出された。
バン! と叩きつけるように閉められたドアを、呆然と見つめた。

さといも、一口も食べられなかった……。


「ごめんね? まだ食事中だった?」


「さといも……さといも……」と繰り返していたあたしの顔を覗き込んだのは、穂積だった。


「おはよう、美弥緒」

「オハヨウゴザイマス、穂積サン」


朝から爽やかに笑う穂積に、ため息をついて答えた。


「ていうか、迎えに来なくていいって言ったじゃん」

「絶対来るって言ったでしょ? 美弥緒の安全のために」

「昨日のことなら大丈夫だってば」

「何をもって大丈夫なんて言うの? それに、」


ふ、と柔和な笑みを浮かべた穂積は、あたしの左目を塞いでいる眼帯に触れた。


「片目が見えないと距離感なくなって危険なんだよ」

「なんだ、こんなの。出かける前に外すつもりだったからいいんだよ」

「ダメだよ。眼科医の許可が下りるまではこうしてなきゃ」


外そうとした手をやんわりと止められた。


「美弥緒に何かあったら困る」

「ぬ、ぬわ……」


きゅ、と握る手に力を込めて、穂積は例の瞳であたしを見つめた。
あ、朝っぱらからそういうの、本当に勘弁してください。