いつかの君と握手

「ど、どうしたの……?」


思わず立ち上がったあたしを、呼吸を荒くした穂積は何も言わずに見下してきた。
その顔がだんだん険しくなっていく。


「え、えーと、穂積?」


今まで見たことのなかった穂積の怒りの形相に、おどおどと声をかける。
と、それまで無言だった穂積があたしを力任せに抱きすくめた。


「ちょ!? 穂積、離しなって!」


スカートの裾からはまだ雫が垂れているし、倒れこんだせいで全体的に薄汚れている。
こんなことしたら穂積まで汚れてしまうではないか。

ていうか、こういうの止めてぇ!!

意外に筋肉質な腕にがっちりと抱きすくめられ、胸元に顔を押し付けられる形になったあたしはバタバタと暴れながら叫んだ。


「は、離しなって。ほら、ちょっと、ねえ!」

「誰にこんなことされた!?」


穂積が発したとは思えないくらいの鋭い声音。
思わずびくりとなった。


「誰が美弥緒にこんなことした!?」

「あ、いや、えと」


がば、と体を離した穂積は、あたしの両肩を掴んで顔を覗き込んだ。
辛そうに眺め、左の頬にそっと触れた。
熱を持っているらしいそこに、冷たい指先が滑る。

「殴られたんだな? 目、大丈夫? こっち側、真っ赤じゃないか……」

「え、えと」


そんなに酷いの?
腫物に触れるような扱いと、ショックを受けている様子の穂積を見て思う。


「ねえ。とりあえず、着替えさせてあげようよ、穂積くん」


穂積の向こう側から、女の子の声がした。
誰?


「あ、そうだね。ちょっと気が動転してしまって、ごめん」


穂積がはっと気付いて、背後を振り返った。
そこに立っていたのは、親睦旅行で知り合った葵ちゃんだった。


「葵ちゃん……?」


どうして彼女がここに?
ぎこちない笑みを浮かべた葵ちゃんはあたしの傍まで来て、手を取った。


「トイレでね、美弥緒ちゃんを呼び出したとか話してる子たちがいて。
まさかと思って美弥緒ちゃんの教室に行ってみたの。そしたら来てないっていうでしょう?
びっくりして、穂積くんと二人で校内を探してたの」


怖かったでしょう? と悲しそうに眉を下げる。

え。
葵ちゃんってば、たった一度会話しただけのあたしを、探し回ってくれたのか。


な、なんていい子なの!?
ささくれだった心が洗われていくようだ。
ああ、人って素晴らしい。