いつかの君と握手

『急に何なの、この態度!』

『サイアク! 性格曲がってんじゃない!?』

『はぁ!? 呼び出しなんてやってるあんたたちの方が最悪だろうがよ』

『だいたいさー、あんたが手を出してないっつーんなら、大澤くんのほうが出してるっていうわけ!?』

『あーそうですね! そういうことですね!』

『ブスが偉そうに言ってんじゃねえよ!』


ぱあん、と頬が鳴った。
グーではなく、パーでやられたのだと理解するまでに1秒くらいかかった。
痛い。ほっぺた熱い。なんでかわかんないけど目も痛い。けっこう激痛。

てか、高みから振り下ろしてくるなんて卑怯だろ。

じんじんとする痛みを堪えて、き、と睨みあげた。


『なに、その顔。あんたは謝る立場だろ。調子に乗ってすみませんってさ』
『理恵にも謝らせようよ。すっごい侮辱だよ、さっきの言葉』


『謝るのはあたしじゃねーし。
さっきの子が、イノリの前に行って謝るべきだろ』


『妖怪女がいい加減にしろよ!? ああ?』


頬が再び鳴った。
ちくしょう、二発目きた。
おんなじところかよ。

さすがに頬を押えてしまうが、それでもここは譲れない。
負けられねえ、と再び口を開きかけたところで、バケツを抱えて駆け戻ってきた理恵の姿を認めた。


重そうなバケツ。
きらめく飛沫。


え。ちょ。それってもしかして。もしかして?


そして、ぶっかけられました。




「……ちっくしょ。びしょ濡れじゃん……」


すんすんと濡れたシャツの匂いを嗅ぐ。
臭くないけど綺麗な水だったんだろうか。
トイレって、トイレって書いてあったんですけど!

いや、もう今更知っても仕方ないか。
ていうか、知りたくない。

転がっていたカバンを拾って、野球部部室の前に置かれたぼろぼろのベンチに座った。
風雨にさらされた木製のそれは、座るとみしりと嫌な音を立てた。

え、大丈夫だよね、これ。
今これが壊れたらやりきれなさ倍増なんだけど。
しかし何かに体は預けたい。
えいや、と背もたれに寄りかかった。


「いって……」


ふう、とため息をついたら、口の中がぴりりと痛んだ。
舌で確認しようとすると、金臭い味が広がる。
ああ、切っちゃったのか……。