「ふい、疲れたー……」


帰るなり、ベッドに倒れこむようにして身を投げ出した。

あれから、イノリと買い物に行くハメになってしまった。
三津たちに美花ちゃん出産のお祝いを贈りたいというイノリに付き合ったのだ、が。
ベビー用品や服を買いに行っただけのことなのに、イノリと一緒だと妙に疲れたのはなぜだ。
この間一人で行ったときは楽しすぎて疲れなんか感じなかったのに。
買い物して疲れるなんてこと、めったにないのに。


いや、理由はなんとなく分かってるんだ。

気恥ずかしさ、のようなものを常に感じていたからだ。
小さな小さな服を二人で並んで眺め、選ぶという行為がこそばゆくてならなかった。
美花ちゃんの為に買いに行ったのであって、そこには何ら後ろめたいことはないのに、そわそわしてしまった。


しかも、その帰り。
車道側を歩いていたら、イノリに歩道側に押しやられてしまった。
『もう俺のほうがデカいから』などと偉そうに言うイノリは、あたしに反論する隙も与えらてくれず。
この茅ヶ崎美弥緒、とうとうイノリに屈してしまった。
紳士イノリに女扱いされてしまったのだ。

結果、ベビー用品専門店のかわいい紙袋を手にしたイノリと並んで、しかも歩道側を歩かされるという何だか背筋のぞわぞわする、叫びながらどっかに駆け出したい時間を過ごしてしまったのだ。


「あー……、なんだ、もう」


ごろりと転がって、枕に顔を埋める。

どうしてイノリに対して動揺してしまったのだ。
買い物行っただけ、それだけなんだぞ。


いや、イノリが悪いんだ、うん。
イノリのせいだ、きっと。

変なこと言うし、変なことするし、変なとこ喜ぶし。
あと、視線が優しいし、声も優しいし、ていうか色々紳士で優しいし。

三津の言葉じゃないけど、『特別』感がすんごく伝わってくるというか。
いや、特別も何も、あたしなんかに『好き』だとか言うし。
『本気で想ってる』なんて平然と言っちゃうし……。

…………。


「……って!! 乙女みたいな思考してんじゃねーぞ! あたし!」


はっと我に返り、思わずぎゃぁぁぁぁぁ!! と叫んで転がった。

なんだ今のは! オマエは少女マンガの主人公か! ヒロインか!
恥ずかしさで気が遠くなりそう! 
うあー、自分の脳内にこんな恋愛回路があるなんて!


「って!!?? 恋愛じゃねえだろ! 経験不足からの回路不具合だっつの!
んぎゃ!?」


転がりすぎたらしい。勢いづいたままベッドから転がり落ちた。
無防備だったせいかフローリングの床におでこをしたたかにぶつけ、別の意味で叫びながら悶絶した。
間抜けすぎ、あたし!

痛い痛いと転がっていると、階下からじいちゃんの声。


「ネコー。暴れてないで、こぶ茶でも飲まんかー? すあま、あるぞ、すあまー!」


こぶ茶……。
すあま……。