いつかの君と握手

「柚葉さ、アレを待ちうけにしてんだぜ。ちなみにオレの待ちうけは、美花ちゃんなんだけどなー」


にひひ、と笑って、三津は小走りで厨房に戻って行った。
その背中を見送っていたイノリがあたしに視線を向けた。


「写真ってあれだろ? さっきもらったやつ」

「そうそう、それ。あの写真は三津やイノリとしか共有できないし、見せられないもんな」


言うと、イノリは首を傾げた。


「柘植には、見せてないのか?」

「琴音? 見せてないけど」


琴音の中でうまく話ができていることだし、もうそれで突き通したほうがいい。


「タイムスリップのことも言ってないんだ。それなのにそんな写真見せたら混乱させるだけだよ」


ひょいと肩を竦めて言うと、イノリは何故か少し身を乗り出してきた。


「言ってない? なんで」

「なんでと言われても……、まあ、簡単に人に言う話でもないし、なー」


琴音が嫌う話題だし、場合によっては精神鑑定を勧められるかもしれないような内容だもんな。
いくら長く付き合った友達と言えど正気を疑われるかも、っていうか。

あれ、あたしって一度こいつに精神鑑定を勧めたんだったっけ。
初対面のときだよな、確か。忘れてるといいなー、あれ。
知らなかったとは言え酷いこと言ったよな、とちょっと反省。


「あの時間が特別……だからか?」


申し訳なさを感じていると、イノリがぽそりと呟いた。
おおっといかん、聞き逃していた。


「へ? なに、なんだって?」

「だからさ、ミャオも特別って、大事って思ってるからか、って」

「は」

「そう思ってくれてんなら、けっこう嬉しいんだけど、俺」


えーと、どういう意味だ?
重要な部分でも聞き逃してたのか?

大事って何がだ、と聞き返そうとイノリを見てみれば、眉間に軽くシワを刻んだ真剣そうな顔つきで真っ直ぐに見つめ返され。


その時何故だか急に、琴音の言葉を思い出した。


『二人の大事な思い出だもんね。秘密にしたい……』


大事……。秘密……。

ああ、そうか。そういうことか!
なるほどねと、納得しかけて、次にその意味を把握して、顔が爆発した。気がした。
子どもが単純に、素直に『あれは秘密だぜ!』っていうような意味合いじゃない。
それはこのあたしでも分かる。

イノリはあの二日間を、すごくすごく大切に思ってくれているのだ。
本当に特別な、大事な時間で、秘密にしていたいのだ。
そして今、あたしもそういう風に感じていると思い、喜んでいる。