しかし、今朝のように背負われるわけにはいかない。
頑なに嫌だと繰り返すと、ようやく諦めてくれたらしい。


「じゃあ、ここに掴まって歩け」


腕をぽんぽんと叩いて示した。


「でも……」

「他の奴等に見られそうな位置まで来たら、離せばいいだろ」


不本意そうにため息まじりに言われたが、あたしは悪くない。

しかし、そういうことならまあ、よしとしてもいい。
差し出された手を渋々取って、立ち上がらせてもらった。

導かれるままに、イノリの腕に掴まる。


「あんまり無理すんな。治りが悪かったら、大変だからな」

「うん、分かった……。って! あんたがあんなことするから無理せざるをえなかったんだよ!」


素直に頷きかけて損した!
何偉そうに言ってんだ、こいつ。


あ。あと、これだけは言っておかねば。


「あ、あのさ。さっきみたいなこと、もう二度とすんなよ? 次は殴るからな」

「殴られても平気。でもまあ、今日はもうしないから」


今日は、って何だ。
しかしこいつと議論しても労力の無駄な気がする。不毛、ってやつだ。


開きかけた口を噤み、文句の代わりにため息を吐くと、イノリが小さく笑った。


「なんだよ。あたしが動揺してるの見て、馬鹿にしてんの?」

「いや? あんまりかわいいから、笑えた」

「はあ!? やっぱ馬鹿にしてんじゃんっ」

「してないって。ミャオがさ、俺に対して赤くなったりどもったりするのがすげえかわいいんだ」

「な……っ」


何を言ってのけてんだ。

ここは赤くなったら負けだ。そう思うのに、血液は勝手に沸騰する。
熱をもった頬を自覚してしまい、そのせいでますます熱は高まるという悪循環。
結果、真っ赤に染まってしまった。慌てて顔を背ける。
が。


「ほら、な。かわいい」


ちくしょう、気付かれた!
熱い熱いとは思っていたが、暗がりでわかるくらい赤いのか、あたし。

口惜しさに唇を噛んだ。


「からかうなってば。困るんだよ!」

「困れよ。そんな顔もみたいし」

「ぅー……っ」


ダメだ。完全に押されてる。
イノリ(小)も積極的だったが、(大)はあたしなんかじゃ手がつけられん程になってる。
誰だ、こいつをこんな風に育成した奴。

って、あの父親たちか。
恨むぞ、まじで。


「ミャオ」

「なんだよ!?」

「これからまた、よろしく」

「んあ? あ、ああ。よろしく」


イノリがぺこんと頭を下げたので、つられたように頭を下げた。