覗きこんでくる顔が、酷く近い。
体が浮いているような、馴れない感覚。
つーか今、超密着している。


「……も、もー無理っ、限界っ!!!!」


たまらず叫んでしまい、半ば転げ落ちるようにして離れた。
あー、逃げた。と残念そうに呟いたイノリを睨みつける。


「あ、あのなあ! 免疫も耐性もないんだがら、す・ん・な!」

「だって、やっと会えたのに? 俺の9年間も考慮しろ」

「オマエの事情は知らん! と、とにかく話は一通り済んだから、もうあたしは行く!」


顔というか、全身が熱い。
血液が沸騰してしまうんじゃないかと思う。


イノリに言われたことも、されたことも、受け入れられるレベルを優に超えた。
一時撤退。あたしには状況整理の時間が必要だ。


「ちょっと待て」

「無理! もう無理! これ以上されたらショック死するから、あたし!」


うあああ、と叫んで、ダッシュで逃げた。
つもりだったが、足に激痛が走った。

うぐう、痛い。怪我してたんだった、あたし。
神テーピングも、全力疾走までは許してくれないようだ。

あうう、とその場に蹲った自分が、情けない。


「ほら、来い」


涙目で足首をさすさすと撫でていると、イノリの声。
顔を上げたら背中がこちらに向けられていた。

ああ、逃げられなかった。
あたしってホントにかっこ悪い。


「急に走るから、痛んだんだろ? ほら、乗っかれ」

「い、いらない」

「いらない、ってなんだよ。ほら、背中乗れ」

「いいって」

「心配しなくても、もうミャオが困るようなことしないから。今日は、とりあえず話は終わり、な?」

「当たり前だ! じゃなくて、そんなことしたらまた視線集めることになるじゃん!」

「またそんなこと……」


はあ、と呆れたようにため息をつかれた。


「そんなこと、とか言うな。今朝の騒ぎ、もう忘れた?」

「周りなんて気にするほうがおかしい」


ああ、もう会話になんねえ、こいつ。