必死になってほぼ叫ぶように言うと、ようやく腕が緩んだ。
しかしそれはほんの少し力を抜いた程度で、あたしの頬は相変わらずイノリの胸元にあった。


「ちょ、離れてってば!」


聞きたいことが聞けたっていうんなら、もういいよね!?

ぐいぐいと押すのだが、離れてくれない。
つーか、こんなに力込めてやってんのに、何でびくともしないの?
え、男ってこんなに力あんの?


「……嫌。離したくない」

「なんだよそれ! つーか摺り寄ってくんな!」


頭にすり、と頬を寄せてくる感覚があった。


「ミャオの匂いがする。つーかミャオ、膝に乗れ。そっちのがいい」

「馬鹿か!! 乗るわけねーだろ! 離せっつってんだ!」


ぎゃいぎゃいと暴れるあたしにお構いなしに、イノリは頭に顔を寄せ、すりすりしている。


「嫌。やっとホントのミャオに会えたのに、離れる意味がわかんねーし」

「意味わかんねーのはオマエだっつの!」


まるで大型犬がもっふもっふと懐いてくるかのようだ。
って、犬だったらいいけど、イノリだしな! しかもでかい方ときた。


6歳のイノリならこっちだってよしよしと撫でてやるよ! と文句の合間に言うと、


「ああ、撫でるのはいらない。ガキのときも、俺がミャオをこうしたかったんだ」


と、大型犬がのたまった。


「はぁ!? どんだけマセてんだよ! 末恐ろしいな!」

「そうか? ああ、やっぱまだ遠い。もっとこっち来て」


縛っていた腕が離れ、背中と膝裏にすいとイノリの手が触れた。
と思った次の瞬間、ひょいと抱え上げられた。


「ぎゃ!?」


ふわりと浮いた体は、イノリの膝上に着地した。
ぐんと顔が近づいて、あたしを乗せた男は満足そうに笑った。


「うん、とりあえずはこれでいい」

「な、な……」


何してくれとんじゃ、この馬鹿!
離れんかい、ワレ!
等々と言いたいのだが、驚きの余り口はパクパクと動くだけで、声がでない。

つーか今、あたしってイノリの膝の上ってところにいるわけ?
抱っこ、みたいな?

ナイナイナイナイ。
ムリムリムリムリ。
もうついていけない。


「あ、あ、あう」

「どうした?」