いつかの君と握手

「え、えーと、な、なんで? そんなに長く想われるような理由がないっていうか、思いつかないんだけど。
9年前っていうけど、たいしたことした覚えもないし……」


最早なんと返せばいいのか分からない。思いついたまま、もたもたと訊いた。

こんな展開は予想してなかった。
イノリに嫌われたくないなー、とか、気味悪がられたくないなー、とかそういう程度
のことばかり考えていた。
逆に、9年前のことはいい思い出だよ、なんて言ってくれるとすごく嬉しいな、とか。

なのに、好きとかそういう予想を遥かに上回ることを言われるとは。

いや、イノリ(小)に好かれてるのは分かってた。
懐かれたことはすごく嬉しかったし。
しかし、それが恋愛感情だと思うはずもなく。

つーか、どんだけマセてんだよ! イノリ(小)!
6歳ですでに一人前の男気取りか、この。

それに、9年間全く会わなかったのにずっと想い続けるって、なに?
そんなことあんの?
いや、それがすげえ魅力的な女だったら、あるのかもしんない。
だけど、あたしだよ?
口の悪いだけの、このあたしだよ?

その上、本当に何にもしてないしね。
三津のほうがよっぽど役に立ったことだろう。

しかし、イノリは当たり前のような口ぶりで言った。


「ミャオと過ごした数日の間で、こいつじゃないと嫌だって思った。
で、今までミャオ以外でそんなこと思うような女に会わなかった。
ということで、好きだ」

「い、いや、だから! こいつじゃないと嫌、とか思わせるようなすげえことしてないじゃん、あたしは!」


あたしが一体何したんだっつーの。
2日くらい一緒に行動しただけじゃないか。

つーか、平然と何言ってんだ、こいつ。
照れとは恥じらいとかないのか、このやろう。
こっちは恥ずかしさで死にそうだってのに。


「俺にとっては、すげえことしてくれたけどな、ミャオは」

「は?」

「ずっと一緒にいてくれて、その間ずっと守ってくれただろ」


守って? はて、そんなかっこいいことしたっけ?
かっこ悪いことはしたけど。


「一緒にはいたけど、守るとかそんな大層な真似した覚えは全くないが」


そう言うと、イノリはふはっと噴きだした。
愉快そうに肩を揺らして笑い出す。
頭に触れた手も、笑い声に合わせて揺れた。

む。変なこと言ってないだろ、と言口にしかけたのだが、まともにイノリの笑顔を見てしまい、口を閉じた。

こいつの笑顔って、初めて見た。

いつもはむすうと唇を曲げてたり、眉間を寄せたりとしかめっ面ばかりだったから、笑った顔なんて見ることがなかった。

ああ、こうして見ると、6歳の頃とおんなじだ。
綺麗な笑顔だ。

思わず見入ってしまっていた。


「そういうところ、やっぱりミャオだな。俺さ、あんたのそういうところが好きなんだ」

「な」


いかん。油断していた。
笑いを含んだ声で言われて我に返った。