いつかの君と握手

見返すと、逆に視線を逸らされた。
そっぽを向かれたまま早口で言われた。


「あの時の俺ってさ、わざと隠れたくせに迷子になって、挙句に女を怪我させてんだぞ。すげえかっこわりいだろ。
しかも怪我してる奴に自分背負わせてさ、悪化させてるなんて、最悪。最低」

「なんだ、そんなこと。あの時のイノリは子どもだったんだし、仕方ないんじゃね?
それに、あたしもあんたに怪我がバレないようにしてたしさ」


子どもの頃のことを悔やんでも仕方ない話だろ。
思わず噴きだすと、イノリが顔をしかめた。


「ガキの頃の話だとしても、仕方なくはねーよ。今のオマエのその怪我は、俺のせいなんだぞ」

「イノリのせいなんかじゃないよ。単にあたしの不注意」

「いや、俺のせいだ。
あの時のこと、今もはっきり覚えてる。オマエを怪我させたこと、怪我してることに気付かなかったこと、すげえ悔しくて、情けなかった」


イノリが余りにも強く言うので、思わず口を噤んだ。
罪悪感でも覚えてるんだろうか。
イノリにしてみれば9年も前の、しかも子どもの頃のことなのになー。
気にしなくってもいいだろうに。

いやでも、イノリ(小)は結構な紳士だったもんな。
あたしのことをきちんと女の子扱いしてくれてたし。
それがそのまま成長したのだとしたら、気にしてしまうのかもしれんなー。

だとしたら、真っ直ぐに育ったんだなー、こいつ。
うんうん。あの2人の父親が育てておいて、曲がるわけないよなー。
いやー、よかったよかった。

それに、なんだか嬉しいなあ。
イノリ(小)の名残があるって、やっぱ嬉しい。


「あ、そうだ。ほら、今朝おんぶしてくれたじゃん? それで貸し借りゼロってことでいいんじゃない? 昨日……じゃないや、9年前にさ、そんな話したよね?」


そうだそうだ。
あたしが困ったときに助けてくれればいいよ、とかそういう会話したはず。
しかし、イノリは首を横に振った。


「それはしたけど、それでも貸し借りゼロにはなんねーよ?」

「え?」

「借りは2回あっただろ」


え。そうだっけ?
うー……ん? 
あ、いや、そう言われれば2回って数字がひっかかるな。

うーん、あ。2回分ね。とかそういう話、したした。
うあ、よく覚えてるなー、こいつ。
6歳児ってこんなに記憶力がいいものなのか?


「言われてみたら確かに2回だっけ。じゃあさ、それはまたおいおい返してくれたらいいよ。つーか、明日あたしの荷物を持つ、とかそういうのでチャラでいいんじゃん?」


律儀ねー、と感心しながら言うと、イノリは再び首を横に振った。


「それでもチャラにはなんねー」

「えー。なんで?」

「利子」

「は?」


りし? 
首を傾げたあたしに、それも覚えてねーのかよ、とイノリはため息をついた。