いつかの君と握手

それから三津たちに出会ったこと、比奈子に見つかりそうになったこと、一緒にドライブしたことを話した。


「で、節ばあちゃんに訊いて、織部のじいさんの家に向かったよね。途中で蛍を見たっけ。そういや迷子になったのも、あそこの木の陰から奥に入って行ったんだろ?
その足跡に気付いてさ、それで見つけられたんだよ」


それまで呆然としたように話を聞いていたイノリだったが、搾り出すように呟いた。


「そこまではっきり知ってるってことは、ホント、なんだな……」

「うん。あたしにとっては前日の話なんだけど、9年前のあの日、イノリと森の中をうろついてたのは、間違いなくあたしなんだ」


ふい、とイノリが顔を逸らした。
全身でため息をつく。

束の間の沈黙の後、


「どうしてみんな、俺にそれを黙ってたんだ?」


と悔しそうに言った。


「ああ、それは多分、柚葉さん説があったから」

「柚葉さん説?」

「恋人が死ぬ未来を変えようとして、逆に自分が死んじゃった人の話。
あんたが事情を知ってしまったら、あたしが無事に帰れる未来がなくなってしまう可能性があったかもしれないってこと」

「そういうこと……」

「だから、みんな話さなかったんだよ。ていうか、話せなかったんだ。
あたしも、あの時のイノリには本当のことを話せなかったし」

「こっちにはどうやって帰って来たんだ?」

「加賀父に相談したら、日付と場所、イノリに関係してるんじゃないかって言われたんだ。
12日の7時45分前後に、イノリと一緒にあのバス停にいれば、きっと帰れるはずだって。
森で迷子になった日さ、みんなすんごく急いでたの、覚えてないかな?」

「ああ、覚えてる」

「あの時、その時間にぎりぎり間に合うかどうか、ってところだったんだ。
あたしなんかは正直諦めてたんだけどさー。
でも加賀父のお陰で時間前につくことができた。それからタイムスリップしたときとおんなじようにバス停にいたら、帰ってこれた、と。

それからは知っての通りだよ。瞬きしたら、今度はあんたが『危ない!』ってあたしを押して、あたしは『痛いな』なんて怒鳴ったろ」

「……そう、だったのか」


これでだいたいの説明ができたかな。
ふ、と息を吐いて、隣を見上げた。

厳しい顔つきのイノリは、遠くを見ながら考え込んでいた。

簡単に受け入れられる話じゃないよな。
あたしだって、自分が体験してなかったら信じられないだろうしなあ。


イノリの中で整理がつくまで、黙ってるとしよう。
膝を抱えなおして、グラウンドの真ん中で瞬く花火を見つめた。
風に乗ってきたのか、独特の火薬臭が鼻を擽る。
ああ、これって夏の匂いだなあ。


「今朝、俺がミャオを押しやったあの時がこっちに戻ってきた瞬間、なんだよな?」

「へ? ああうん、そう」


頷くと、イノリは独りごとのように呟いた。


「だからあそこにオヤジや三津さんがいたのか」