いつかの君と握手

まあそれはいいのだけど、手を繋いだ状態というのは非常によくない。
既に数人に見られてしまった。
今朝の二の舞は困るし、誤解されそうなことはしないほうがいいだろう。
つーか、何でこいつはそういうところに無頓着なんだろう。

暗いから気をつけろよ、と言いながら手を離してくれたイノリに非難の視線を送ってみたのだが、気付いてもらえなかった。

鈍いのか? こいつ。
まあいいや。


「あのさ、どこ行くの?」

「グラウンドの方行ってみるか。端にいりゃ、目立たないだろ」

「ああ、なるほどね。じゃあ行くか」


別に花火をしなくてもいいわけだしな。


既に花火で盛り上がっているグラウンドへ行き、離れたところにあった垣根の陰に並んで座った。


体育座りをし、遠くできゃいきゃいと遊んでいる様を眺める。
火のついた手持ち花火をぶんぶんと振り回している奴がいるようだ。
光の輪がぐるぐる回っているのが見えた。


「あはは、振り回す奴って絶対いるよな。ってあたしもなんだけどさ」

「ああ、いるいる。で、叱られるんだよな」

「そうそう。よくじいちゃんに怒られるんだよなー」

「……で?」

「は?」

「は? じゃなくて。話、するんだっただろ」

「あ! ああ、うん、そうだね」


横を見れば、見上げる位置にイノリの顔があった。
外灯の灯りに照らされた顔は真剣で、幼かったときの名残があった。

信じてくれる、よなあ。
これはイノリだもん、信じてくれるはずだよな。
でも、嘘だろ、なんて切り捨てられたら悲しいなー。
って、いやいや、大丈夫だよな。

よし、と心の中で区切りを付けてから、話し始めた。


「えーと、さ。あたしさ、今朝、車に轢かれそうになったでしょ?」

「ああ」

「実は、あの瞬間にさ、9年前の2003年7月10日にタイムスリップしたんだ」

「は……」


あたしの告白に、イノリは静かに目を見開いた。
それから何度も瞬きを繰り返して、


「本気で言ってる、のか?」


と訊いた。


「本気で言ってる。だから、信じて欲しい。
車に轢かれる! と思って咄嗟に目を閉じたんだけど、ぶつかってきたのは6歳のあんただった。
確か、『ごめんなさい、おねーさん』って言われた。その後、K駅に行って、保安員のカバみたいなおっさんに捕まったあたしを、あんたが助けてくれたよね」

「…………」

「話をしてたら、それが6歳の大澤だって分かった。
そこで初めて、どうしてあんたが15歳のあたしを知っているのかも、理解できたんだ。
ああ、こうしてあたしとあんたは出会ってたのかって。
で、前にさ、黙って帰ったとか、織部のじいさんが、とかいう話をしてくれただろ?
それを思い出して、じゃあこの子といれば元の時代に帰れるかもしれないって考えて、それで一緒にいたわけ」