「腫れ、少しは引いたみたいだな、よかった」

「え? あー、うん。いやええと、別に確認しなくても、さあ」


そっと触れる手が優しい。
のだが、だからって触んなや。穂積の顔が固まってんぞ。


「大澤って、そんなことするんだ……」

「あ? なにが」

「いや、その……いいや、何でもない」


言い躊躇って、結局口を閉じた穂積。多分言葉が見つからなかったのだろう。
しかしあたしの足首をそっと撫でているイノリを唖然とした様子で見ている。

つーか、マジで足離せって。
心配してくれるのはそりゃ有難いが、でも止めろって。
人目をひくとまた問題になるから。鬼のような責めを受けるから。
思わず周囲を見渡す。幸いにも、こちらに視線を寄越している者はいない。

へい、と足を振ってイノリの手を解いた。
目で『触んな』と告げると、不服そうに立ち上がった。

うーむ、子どものときの名残なんだろうか? 安易に触れてくるのは。
口数は少なくなったみたいだけど。


「大澤くーん、配膳の準備手伝ってくれるーぅ?」


のんびりとした琴音の声がかかった。


「ああ」


短く答えて、イノリはついとあたしを見下ろした。


「なに?」

「あとで話がしたい」


おい、今言うなよ。
穂積の顔に、興味の色がありありと浮かんだだろうが。


「自由時間、空けてくれないか」


夕食後は入浴となっている。それから就寝時間の22時までは、自由時間なのだ。
とは言っても、レクレーション室で映画上映、外のグラウンドで花火(後に校長主催のフォークダンスに移行予定)、講堂での卓球大会など、自由参加のイベントがある。
もちろん参加せずともよいので、あたしは部屋で鳴沢様を視聴するつもりだった。
電波も入ってるし、視聴に何ら問題はないのは確認済みなのだ。


が、ここはイノリとの話が最優先事項であろう。
イノリも、あたしの急変ぶりに驚いていることだろうし。


「わかった、いいよー。お風呂のあとロビーにいるから、声かけて」


「ん」


頷いて、イノリは琴音の元へ行った。


「驚いたなー。オレが間近で見てるのに、直球で誘うんだもんな」


後姿を眺めていた穂積が、ほう、とため息をついた。


「今朝のことといい、2人に何かあったの?」

「へ? いや、別に、ない、けど」


つい歯切れが悪くなってしまう。
タイムスリップしました、なんてそうそう言えないしな。