ホント、不思議だよなあ。
日常って、あたしが思っていたよりも簡単に変化してしまうんだ。
唐突に、そして否応なく。
これってあたし的には衝撃の事実、だ。
別段憂いてたわけじゃないけど、人生って微妙に違う毎日の繰り返しだと思い込んでいたし、変化なんてものは目に見えないくらいゆっくりなものだと認識していたのだ。

それが、どうよ、これ。
今回の一件で、人生観が大いに変わった気がするよ。
熱血校長の弁ではないが、世界ってのは可能性が満ち溢れてると言ってもいいかもしんないね。

って、少し熱くなっちゃった、てへ。


しかしなあ。
どうしてあんな風に時を越えたのかが分かんないんだよな。
瞬き一つで、しかもイノリが近くにいるときに時間移動、ってそれどんな条件だよ。

だいたい、物語や映画なんかでは、そうなるためののっぴきならない理由があったりするもんなんだよね。
んでもって、主人公なんかが世界を救うような偉業をなしとげて元の世界に帰っていく、みたいな。

しかしあたしは9年前の世界で、大したことをしていない。
イノリの父ちゃん捜索の旅に同行し、迷子になったイノリを助けて捻挫して、挙句に一緒に迷子になっただけ、だ。


人生経験という点で言えば、あたしは随分なことをさせてもらったように思うけど。
あんなの、めったにできる経験じゃないしね。
それに、振り返れば楽しかったなーと思えることばかりで、良かったー、ラッキーと言えるくらいだ。

でも、楽しかった、人生観変わった、それだけでいいのかな?
何か意味があるんじゃないか、と思うのは考えすぎ?


「うーむ」


首を傾げた。
意味、意味ねえー……。


無事に帰れたということは、その『意味』を果たしたということになるのだろうか。
映画やアニメなんかを引き合いにだせば、そうだよね。

しかし、あたしは特に何もしていないし、何かしたというなら、それを教えてもらいたい。
特に重要なことってなんだろ。
イノリを加賀父の元に連れて行ったってこと、とか?
でも、あの父親たちなら、あたしが介入しなくてもいずれ問題は解決できていたと思うんだよなあ。
つーか、介入、というほどのこともしてないしな。


……むー。
つーか、自分が何かしらの意味を持っている、なんていうのは単に驕った考えなんじゃないかって気もしてきた。
自分の可能性を過信するなんて、それって何の中二病だよ、って感じだし。


「……つーか、でかすぎっ!」


一向におにぎりが減らない。
残すところ、あと3分の1。しかしその3分の1が減らない。

なんと! ここにきて鶏そぼろが出てきた、だと……っ!?
すげえ、これで何種類目だ。まだ何か新種が埋もれてんのか!?


色々考えていたはずだったのだが、おにぎりの存在に思考を中断した。
満腹中枢は充分に刺激されまくりで、正直お腹が破裂しそうだったのだが、加賀父の手作りを残すなんて選択肢は、ない。
バラエティに富んだ巨大おにぎり、勝ってみせるぜ。
頭を空にして、おにぎりを体内に取り込むことにのみ集中するのだ、美弥緒!

さて。あたしという人間は、記憶力がちょっと足らない。
覚えておかなきゃいけないことでも、新しいことが追加されるとところてん式に排出されてしまうということが、多々ある。

なので、今回もその例にもれず、巨大おにぎりを征服(完食)後は、達成感ばかりを覚え、その末に布団でぐうぐう寝てしまっていた。


しかも、オリエンテーリングから戻ってきた琴音に起こされるまで、意識がもどることはなかった。

あ、間抜けだという自覚は、大いにあります。