いつかの君と握手

「大澤くんって、優しいんだあ」

「アタシも足挫いたらおんぶしてくれるかなー」

「そうかもー。それならちょっとくらい怪我しても構わないんだけどなー」

「ちょっとぉ、ワザとそんなことやんないでよ!?」


独り言やひそひそ話にしては大きな声が、そこかしこから聞こえた。
ど、どうやら危険は回避できた……か?


「ちぇ、大澤はいつもかっこいいとこ持ってくんだよな。
オレも怪我した女の子を拾うチャンスがあったら、お姫様抱っこくらいするんだけどなー」


穂積が冗談めかして言うと、数人の女の子がくすくすと笑った。
雰囲気がぐっと柔らかくなったのが分かる。


よし、いける。どうにか助かった……。

川上先生に処置を受けつつ、こっそりとため息をついた。


「おい、ここの騒ぎはなんだー? 集合後、すぐに移動って言っただろうがー!」


のっそりと森じいが現れた。
集まっている生徒たちを、しっしっ、払うように追い立てる。


「ほれほれ、班ごとに移動! 班長しっかりしろー!
あれ、どうした? 茅ヶ崎」

「来る途中で捻挫したそうなんです。内出血もあるし、手当てをしないと」


内出血? と川上先生の手元を見れば、湿布を剥がした足首の一部が醜く変色していた。
おおお、人ならざる色味なんですけど!

えー、こんなに酷かったの?
自分で湿布貼ったときは暗くてよく見えなかったからなー。

つーか、やっぱりじいちゃんの稽古を止めたのがいけなかったかな。
あれくらいの高さで怪我するなんて、情けない。


「おお、酷いなー。大丈夫なのか、茅ヶ崎」

「そこそこ平気、ですけど、けっこう嫌な見た目ですね……」


視覚というのはすごいもので、どす黒い内出血痕を見た瞬間、足首の痛みが酷くなってきた気がした。


「整形外科に一度見せたほうがいいかもしれないわね……。森先生は電車ではなく、車で行かれるんでしたね? 彼女を病院へ連れて行ってもらえません?」

「校長を乗せていくことになってますよ。
仕方ない。茅ヶ崎、宿泊施設までおれと校長とドライブするかー」


んあ!? ちょっとそれって何の罰ゲーム!?
あたしはこれから琴音にたっくさん積もった話をしなくちゃいけなくて!
イノリにも説明しなくちゃいけなくて!

オヤジたちとドライブしてる暇なんてこれっぽっちもないんですけどー。


「あ、あたし平気です! これくらいの怪我、なんてことないし!」


稽古中は怪我なんて日常茶飯事だったし!
だいたいこんな怪我、たるんでる証拠だし!
しかし川上先生は、ダメ! とふっくらした頬をますます膨らませた。


「念のために受診しといたほうがいいわよ。そのほうが安心だし」


嫌だってば! なんで森じいと校長と行動を共にせなならんのだ。