いつかの君と握手

でれでれとした三津からケータイを奪い取って、写真を見る。
それは間違いなく柚葉さんで、赤ちゃんはなんとなく三津に似ていた。


「柚葉さんと結婚、したの……?」

「うん」

「柚葉さん、三津なんかと結婚したのぉ……?」

「おい! 引っかかる言い方すんな!」

「お、お、おめでとぉぉぉ」

「おおっ? あ、ありがとなー。何だよ、そんな感動すんなよなー」

「感動するさー。おめでとぉぉぉ、三津でも人の親になれるんだねー……」

「それって何気にシツレイじゃね?」


しかし9年って歳月はすげえ。
赤ちゃんが生まれてるよー。
あたしにとっては数時間前に別れた人が、父親と母親になっちゃってるよ。

感激して、三津と何回も「おめでとう」「ありがとう」の応酬を繰り返していると、


「そろそろ説明してくんねーかな?」


と不機嫌な声がした。
はて、と見れば、そこには仏頂面のイノリが立っていた。


「あ!」

「忘れてた」


いかん! 三津の登場ですっかり忘れてしまっていた。
つい三津と顔を見合わせてしまう。


「今の状況を、分かるように説明してくれねえ?」


えーと、あれから加賀父はイノリになんて言ったんだ?
うまく言っておくって、どんな感じ?

つか、どうしたらいいんだ。
もうこっちに戻ってきたことだし、本当のこと話していいんだっけ?
しかし、タイムスリップしてました☆ なんて言って、信じてもらえるのか?
いや、事実だし、信じてもらうしかないわけだけども。


「オマエさぁ、どうして三津さんと親しいわけ? 柚葉さんも知ってるようだけど?」

「え、ええと……」

「前に俺が織部のじいさんの名前をだしたときは、知らないって言ったよな?
三津さんや柚葉さんを知ってて、織部のじいさんは知らないって?」


立て続けの質問の声が酷く低音。
うわー……。すんげえ怒ってる。
だよなー。今までのあたしの行動からしてみれば、三津とキャッキャ話してるこの事態は、ナイよな。
うん、怒って当然でしょうね。


「あの時のことは祈には内緒だったもんなー、はは」


しかし、相変わらずこの男は考えなしに話すようだ。
三津があっけらかんと笑い飛ばし、その言葉にイノリの眉間のシワがますます深くなった。


「内緒……?
三津さんさあ、ミャオのことはもう忘れろって言って、話題にもあげようとしなかったよな?
それが何で急に現れて、親しげに会話して笑っちゃってんだよ?」


おお、冷気を感じる。
怖!
ホントにこれがあのかわいらしいイノリなわけ?