いつかの君と握手

「三津ぅ!?」

「よ、9年ぶりだな! この日を待ってたんだぜー」


振り返れば、傘を差した、黒髪の三津が立っていた。
すっかり落ち着いた雰囲気で、生意気にもヒゲなんぞ生やしている。
ぱっと見には、少し渋みのある大人、といった感じだ。


「やだ! 三津がおっさんになってる! マジ!?」

「ちょ、みーちゃん酷い! 久しぶりの再会で、それかよ!」


へにゃ、と情けない顔つきになる三津は、やっぱり三津だった。


「だってあたしにとっては数時間ぶりの再会だし! あははははは、フケてる、あははは!」

「ウケすぎ! かっこよくなったって評判なのに、オレ!」

「どこでだよ!」

「矮小地域でだよ!」


爆笑したあたしに傘を差しかけてくれながら、ため息をつく。


「ほれ、とにかく立てよ。濡れてっぞ」

「あ、うん。って、痛い……ぃ」

「へ? あー、そっかそっか。怪我してたんだったよなー、ほれ、つかまれ」

「ありがと」


三津に支えられて、よいしょと立ち上がった。バス停のベンチに座らせてもらう。


「お、雨止んだなー。よしよし」

「柚葉さんは?」


まだ雨雲の残る空を見上げながら傘を仕舞う三津に、わくわくしながら訊いた。
三津がいるのなら、柚葉さんだってきっと来てくれてるはず。
しかし三津は顔をしかめて、でっかいため息をついた。


「あー、オレさあ、あのあと振られたんだよ……」

「うそ!? ああでもやっぱりね!」

「やっぱりってなんだよ! つーか別れてねーよ!」

「嘘かよ! え、じゃあどこにいるの?」


きょろきょろと見渡しても、柚葉さんは現れない。
来てないのかなあ、としょんぼりして三津を見れば、にやにや笑っている。


「なに、その変な顔」

「こら! 変な顔とか言わない! 柚葉は今、入院中なんだよ」

「え!? どうしたの!?」


病気!? と顔色を変えるあたしの前に、三津はケータイを突きつけた。
あ、あたしと同じ機種だー。って、これがなに?


「オレの子どもー」

「は? はああああああああああああ!!」


画面の中で、生まれたて、といった様子の赤ちゃんを抱いた柚葉さんが笑っていた。


「昨日の夜生まれたんだー。女の子でぇ、名前は美花(みか)ちゃんでっす。
てな訳で、柚葉は来れなかった。すごく来たがってたんだけどな」