いつかの君と握手

「は? え、だってオマエ知らないって、あんなに……」

「今は知ってる。だから、いいんだよ」


うろたえて、視線がさまよってる。
ああ、そんな表情になると、やっぱりイノリなんだなー、と再認識する。


「えーと、あー……。ソレで呼んでいい、のか?」

「おう。呼べ」


に、と笑ってみせると、躊躇うように唇を濡らし、


「……ミャオ?」


と、低い声で呼んだ。


「うあ。低っ。何だよそれ、あのかわいらしい声じゃねえし」

「な!? 今更だろ!」


とは言え、芯はイノリの声だった。
9年の成長を遂げた、イノリの声だ。


「おい、イノリ」

「あ? なんだよ」

「お帰りミャオ、って言ってみろ」

「はぁ?」


意味分かんねえ、と洩らして、頭をがりがりと掻く。


「言ってみてってば」

「あー、もう。……お帰り、ミャオ?」


低いけど、確かなイノリの声。
ああ、あたし、本当に。


「帰ってきたんだぁぁぁっ!」

「ちょ! おい、なんだよ急に!」


思わず、抱きついていた。


「やった! やったー! 無事帰ってきました! イヤッフー!」

「い、意味分かんねーし! なんだよ、おい」

「帰還しましたー。イエーア!」

「なんだよそのテンション、ついていけねーだろ!」


もがもがと暴れるイノリの首にしがみつき、ぎゃーぎゃーと喜んでいると、


「待ってたぜー、みーちゃん」


背中に声がかかった。
この声は……!