「じゃあ……またね」

「はい、また。三津とか、柚葉さんによろしく。あと、織部のじいさんにも」

「伝えとくよ」

「イノリには……」

「上手く言っておくさ。もちろんタイムスリップのことは内緒にしとく」

「お願いします」


雨の降りしきる中、少しの距離を取って、加賀父と向き合った。
傍から見れば、奇妙な光景かもしれないな、と思う。

周囲に人がいなくてよかった。
車は何台も通り過ぎているけど、そこまで目立ってるわけじゃないし、問題ないよね。

しかし、雨激しいな。
9年後もすごい雨だったけど、こんな感じの大雨だったっけ。
あ。加賀父、傘を差していないんだった。


「あの、濡れるといけないから、車のほうに」

「構わないさ。見送りたいんだ。あ」


加賀父が目を見開いた。
安心したように大きなため息をつく。


「どうかしましたか?」

「君の周りの空間が広がってく。そうか、時間がきたんだ」

「じかん?」

「そう。じゃあ、9年後にまた、ね?」


にこり、と雨の中、加賀父が笑った。
あたし、帰れるの? 


「え、あ、あの」

「また会うのを楽しみにしてるよ」

「あ、あの……また!」


瞬きを、した。