いつかの君と握手

窓の向こうは、K駅まであと少し、といったところの景色だった。
しかも何故か、さっきまで快晴だったはずなのに雨がざあざあと降っている。
フロントガラスには大きな雨粒が打ちつけられていた。


「時間がないんだ。どこ?」

「へ? へ?」


時計を見れば、7時32分。
ぎゃ! すんげえギリギリ!

でも、着いてるんだ!!
すげい、加賀父とトマトパスタ!


「えーと、えーと。あ! あそこのバス停です!」


きょろきょろ見渡せば、見覚えのあるバス停があった。


「分かった。カギ出してて! あと、多分追加料金かかってるはずだから、これ」


じゃら、と小銭を渡される。


「か、かたじけない」

「ぷ。こんなときにボケないで」


あんな夢をみていたせいか、間の抜けた礼を口走るあたし。
加賀父はバス停前に車を停めた。


バスを待っているらしい高校生くらいの女の子が、エンジン音も仰々しいトマトパスタを見て、あからさまに顔をしかめた。
見た目は怖い感じの車だけど、運転手はすんげえかっこいいよ! 絶対だよ!
なんて言える余裕もなく、ロッカーにまっしぐら。


「えーと、あ、ここだ!」


小銭をいれ、カギを回す。
妙に懐かしさを覚える旅行用バッグを引っ張り出すと、すぐに車に戻った。


「持ってきました!」

「出すよ」


K駅に向かって、慌しく車は走りだした。
少し外に出ただけなのに、髪や肩がしっとりと濡れた。


「す、すいません、あたし、爆睡してたみたいで」

「構わないさ。君をゆっくり休ませられなかったのはこっちのせいなんだから」


峠道と違い、何台も車が走行している国道を、トマトパスタは縫うように走っていく。
街中をこんな運転で大丈夫なのか。
雨だし、スリップの危険が!
ていうかパトカーでもいたら大変ですよ!

しかし、このお陰で時間までにK駅前のバス停につけるのだ。
ありがたや。


「あ、あの、ありがとうございました。あたし、あの」

「お礼はさ、また今度会ったときでいいよ。9年後、でね」


目前にあった信号が、黄色から赤に変わった。
しかしトマトパスタはスピードを緩めることなく突っ切った。

他車からのクラクションを背中に聞きながら、頭を下げた。
すんません、緊急事態なんです、勘弁してつかあさい。
今度から交通標識は絶対に守りますんで!