いつかの君と握手

「なんだ、そんなの。いいよ。いっぱい『りし』つけといてよ」

「いてて……。お、本当にいいのかい? ぐへへ、ありがとよ」

「なんだか悪い笑い方になってるよ、ミャオ……」

「うるさい。あ、そうだ。これ、足に張っておきな」


救急箱から湿布をとりだして、イノリに渡した。


「ホントは貼ってやりたいんだけど、ごめん。自分でできる?」

「ん。でもミャオも貼りなよ。ミャオも痛いでしょ」

「はは、了解。あ、こっちはお茶とおにぎり。食べな?」

「ありがとう」


揺れる車内で、んしょんしょ、と湿布を張る。
うへー。ひやっこい。でも気持ちいーかも。
腫れたところが熱をもっててうずいてたからなー。


「だいぶ明るくなってきたなー、ほら、朝日」


巧みなハンドル捌きをみせる加賀父が窓の向こうを指差した。


「あ、ほんとだ……」


峰の間から、太陽が顔を覗かせていた。
9年前の世界で2回目の朝だ。

木々を照らし、ゆっくり上る太陽。
普段日の出なんてみないから、少し珍しさを感じてしまう。
雲もないし、今日もびっくりするくらい暑い一日になるんだろう。

しかし、爽やかな気分には到底なれなかった。
逆に、深く落ち込んでいった。

あの太陽が沈むころ、あたしはどこにいるんだろう。
ちゃんと、9年後にいて、9年後の日の入りを見られるのだろうか。
やっぱり帰れなくて、ここで帰る方法を模索しているんじゃないだろうか。

ざわりと足が竦んだ。

車載時計の表示は、5時32分。
2時間後、あたしはK駅前のバス停にいる?
なにより無事に戻れる?


『帰れるのか』、ということが、今更になって心に重くのしかかってきた。
加賀父の言葉以外、元に帰れるという保障はどこにもない。

こうしてバス停に向かっても、7時45分をこの時代で過ごしてしまうかもしれないのだ。


「美弥緒ちゃん、少し眠りなさい」

「え!?」


無意識にぎゅうと握り締めていた手がふわりと包み込まれた。


「一晩寝てないんだ。疲れてるだろう? 疲れは心を侵食してしまうから、休みな」

「い、いいいいいや、その、あの」


ぎゃー!
金吾様に手を! 手を!


「心配しなくてもいい。君は必ず、俺が帰すから」

「で、でも……」

「絶対、だから」


ぎゅ、と力が込められた。