いつかの君と握手

「ミャオ……、ごめん、ね……」


想像が止まらず、イヤンイヤン、と首を振っていると、後ろから小さな声がした。


「へ、へ?」


どうにか顔を後ろに向けた。
ちょこんと座ったイノリが申し訳なさそうに視線を落としていた。


「おれが逃げるようなまねしなかったら、ミャオがけがすることなかったし、それに、帰る時間におくれなくてすんだんだろ?」


ごめんなさい、と頭を下げた。


「い、いいよ、そんなの。怪我したのは自分のせいだし、イノリが気にすることじゃない」

「でも、さあ」

「いいって。今こうして父ちゃんが送ってくれてるんだし、あたしの足は何日かしたら治るんだし、問題ないよ」

「でも……」


車は依然、爆走中。
それに怯えているあたしなのだが、イノリにはその引きつった表情が別の意味に感じているのらしい。
ますますしゅんと肩を落とした。

笑って安心させてやりたいのはやまやまだが、できない。
だってホラ、今もまた遠心力がぁぁぁぁぁぁぁ。


「えーと、えーと……、あ、そうだ。ほら、森の中でも約束したじゃん? あたしが困ったときは助けてってやつ。
イノリに貸し2つ目ってことで、どう?」

「かし、ふたつめ?」


どうにか、少年の罪悪感を拭えそうな案を思いついた。


「そうそう。イノリはこれから先、あたしが困ってたら、2回助けるの」

「……うん、わかった。それでいい」

「よし。じゃあ約束な。あ、でもあたしは悪徳商人だから、すんげえ高い利子つけるかもしんないぞ。いいか?」


あ。こうして会話に集中していたほうがいいかも。
イノリをからかうと、ちょこんと首を傾げられた。


「りしってなに?」

「おおう、そこからかい。借りたお礼として、もっとお返ししろってことだよ。
今回のことで言うとだな、2回助けたくらいじゃ許さないぞー、もっとお返ししろーって意味。
んぎゃ!」

「あ、美弥緒ちゃん、ごめん」

「うう、いえ、平気っす」


後ろを向いたままイノリをからかうことばかり考えていたら、ピンカーブに当たったらしい。
強い力でどん、と押された感じで、加賀父の肩にこめかみが激突してしまった。

うう、痛い。

悪徳商人はすでに金吾様に成敗されました。