いつかの君と握手

「お。柚葉が来た」

「みーちゃん! これ!」


走りこんできた柚葉さんが、抱えていた箱をぐいと押し付けた。


「湿布が入ってるから! あとこれも!」


冷えたペットボトルのお茶と、アルミホイルに包まれた、ほんわり温かいもの。


「お茶と、おにぎり! お腹すいたでしょ? 車の中で食べて!」

「あ、ありがとうございます……」


あったかいおにぎりは、柚葉さんが作ったものなんだろうか。


「みーちゃん。気をつけてね!」

「行くぞ!」


柚葉さんの手を握ろうと手を伸ばしたら、加賀父が乗り込んで、すばやくシートベルトをつけた。


「美弥緒ちゃん、出るよ。ドア閉めて」

「あ、あの! お礼とかまだ……」


まだ柚葉さんたちにきちんと挨拶ができてない!
出会ってからずっと、優しくしてくれた人たちなのに!
あたしの言葉を疑わずに信じてここまで連れてきてくれた人たちに、お礼くらい……!


「それは、次に会ったときでいいよ。アタシたち、待ってるからさ! 何年後でも!」

「柚葉さ……」


柚葉さんが目元をごしごしとこすりながら言った。
声は涙で濡れている。


「気をつけて! またな、みーちゃん!」

「あ、あの」


言う間もなく、三津がドアを閉めた。
すぐさま発進するトマトパスタ。

エンジンの音にかき消されるような気がしたけど、それでも窓を開けてお礼を叫んだ。

聞こえたかな?
聞こえたよね?

待ってて!
9年後、必ず会いに行くから。
そして必ず、今日のお礼を、感謝を伝えるから!


涙が、車窓の向こうに流れていった。